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人と自然に優しい食品・雑貨でエシカル消費を広める(「りんねしゃ」 愛知県津島市)

2023.08.31

社会・地域

ここが最前線
・安心・安全な食品を求める人々のニーズによって生まれた会社
・高度経済成長の頃から食の安心・安全や環境問題を啓発、
・フードロスがゼロになる農産物の共同購入方式を構築
・人と自然に優しい食品・雑貨の開発・販売によりエシカル消費を広める

愛知県津島市に「りんねしゃ」という企業があります。1977年以来、約半世紀にわたり、食や暮らしの安全、安心にこだわり続けてきました。今でこそ、食品のトレーサビリティやリスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションなどは企業として当然のことと考えられていますが、りんねしゃの創業当時、それらにこだわる人はいませんでした。

そんな中、「りんねしゃ」を立ち上げたのはなぜか。どのように消費者としてあるいは生産者として社会的に運動を広げていったのか。創業者の飯尾夫妻の娘さんで、「りんねしゃ」の心を受け継ぐ取締役副社長の大島幸枝さんにお話をうかがいました。

「りんねしゃ」取締役副社長の大島幸枝(おおしま さちえ)さん
「本草研究所RINNE」にて

 

「本草研究所RINNE」として「VISON」に出店

2021年、伊勢神宮の門前町ともいえる三重県多気町に、食や自然へのこだわりをテーマにした大型商業リゾート施設「VISON」が誕生しました。この中には本草(ほんぞう)と呼ばれるエリアがあります。本草とは薬草をはじめとする人間にとって薬となる天然由来の産物を研究する学問のことで、もとは中国の本草学に由来します。「VISON」の本草エリアには三重県にゆかりのある本草を用いた温浴施設や薬草園などがあり、「りんねしゃ」の「本草研究所RINNE」もここにあります。

 

ヴィーガンのメニューやハーブのワークショップなども開催

「本草研究所RINNE」では無添加食品や有機農法によって生産された農畜産物、天然由来の生活雑貨の販売のほか、カフェスペースではオーガニックやヴィーガンのメニューを味わうことができます。また、植物療法士によるパーソナルアロマオイルづくり、玄米とハーブのアイピロウづくりなどワークショップの体験も可能です。

大島さん「VISONへの出店には施設側からのオファーがありました。本草学を極めたいと思って本草研究所と名付けたわけではなく、本草に関する本を読むうちに食べ物が体をつくることや自分が暮らす土地で養生することに意味があるなど、私がこれまで実践してきたことの大切さがあらためて実感できたのです。また江戸時代には多気町出身の野呂元丈(のろ げんじょう)という本草学者がいることを知り、多気町と本草の強い結びつきを感じました。『本草研究所RINNE』はこれまでの『りんねしゃ』とはちょっと違ったオシャレなお店を目指しました。こうした雰囲気の中でワークショップを体験しカフェでくつろぎながら初めてのお客様に『りんねしゃ』の商品にも親しみを持っていただくきっかけになればと思います」

「本草研究所RINNE」周辺の庭や畑はスタッフみんなでコツコツと作ったものだそう。たとえ小さなアクションでも、それに興味を持つ人が集まることで、思いがけないことが生まれるきっかけになるかもしれません。

「本草研究所RINNE」は本草エリア内の小高い丘の上にある。
店の前に駐車場(有料)あり。近くには薬草湯や薬草園もある。

 

人に優しいものづくりから生まれたロングセラー商品たち

津島市には「りんねしゃ立込(たてこみ)店(本社)」と「宇治店」があり、対面販売はもちろんオンラインでの購入もでき、品物によっては共同購入や宅配などを行っています。

人にも自然にも優しいものづくりをコンセプトにオリジナル商品の開発も行っており、ロングセラー商品は、「菊花せんこう」と「赤丸薄荷(あかまるはっか)オイル」です。

「菊花せんこう」は天然成分のみを原料とした防虫線香。北海道の自社農場で栽培されているシソ科ハーブの除虫草や北海道産の薄荷、お香の制作に用いるタブ粉などが使われています。もともとは大島さんの父・飯尾純市さんが愛用していたものなのだそう。虫を殺すのではなく、寄って来ないようにするためのものです。一般的な蚊取り線香に比べて喉や鼻への刺激も優しく、お香のようなやわらかい香りです。

赤丸薄荷は1924(大正13)年に、北海道で在来種の選抜品種として誕生しました。「りんねしゃ」では赤丸薄荷を北海道滝上町にある自社農場で栽培しており、これを原料にしたエッセンシャルオイルです。無農薬、無化学肥料により根気よく栽培された赤丸薄荷は西洋の薄荷に比べて精油に含まれるメントールが多く、含有率は80%以上です。メントールは体の痛みやかゆみを和らげ、心身をリフレッシュしたりと健康に役立ちます。

「りんねしゃ」が製造販売している「菊花せんこう」。
茶色は天然色で、着色料は使用してしない

「りんねしゃ」宇治店

 

安心・安全な食品を求める人々のニーズによって生まれた会社

「りんねしゃ」の創業は1977年。大島さんの両親が愛知県津島市で立ち上げました。当時の日本は高度経済成長期のピークを過ぎ、少し陰りが見え始めた頃でした。しかし、多くの日本人はこのまま右肩上がりの経済が続くと信じていたことでしょう。

ところが1977年5月、その意識を揺るがす事件が起りました。琵琶湖に大量の淡水赤潮が発生したのです。赤潮はリンや窒素などの湖への流入による富栄養化によってプランクトンが異常に増殖した状態です。その結果水中の酸素濃度が減少し、水生生物が死滅。水道水から異臭が生じるようになりました。近畿の水瓶であり、約1400万人がその恩恵を受けているはずの琵琶湖がそうではなくなりつつありました。

琵琶湖の周辺では京阪神エリアのベッドタウン化が急速に進み、急激な人口増加が起こっていました。それに伴い、合成洗剤や肥料が琵琶湖に流入。これらにリンや窒素など富栄養化の要因が含まれていたと考えられています。

これ以前から滋賀県では、赤ちゃんのおむつかぶれや主婦の湿疹が目立つようになっていました。原因は合成洗剤にあると考えられ、主婦たちは洗剤の勉強会や合成洗剤の共同購入などを行うようになっていました。

琵琶湖の赤潮の発生は主婦たちの危機感を一層募らせ、環境運動は他県にも広がりを見せ始めたのです。

環境意識の高かった大島さんの両親も「他人事ではなく自分たちのこと」としてこの問題を受け止め、津島市の主婦たちと洗剤や食品添加物についての勉強会を立ち上げました。やがてそれは無農薬・無添加食品の共同購入につながっていったのです。

大島さん「自分たちが良いと思う物を求めて全国を探し回るうち、すばらしい商品を作っている人々と知り合いました。そして、安心・安全な食品を求める会員がさらに増えてきたため、父が代表になって『りんねしゃ』を創業しました。株式会社にしたのは2000年です。株式会社として組織化することでより世の中に貢献し、自分たちの運動を継続できると考えたのです」

 

共同購入でフードロスをゼロにする

「りんねしゃ」では40年以上前に「フードロスはゼロ」という仕組みをつくりました。それはどのようにして構築されていったのでしょうか。

大島さん「まず生産者である農家さんの商品に対する熱い思いを消費者に伝え、商品に対する購入希望者を募ります。注文を取った数だけ生産者から商品を受け取り、購入者に配るので、フードロスはありません。農家さんの思いを無駄にしてはならないと思ったからです。農薬を使わずに育てたミカンはどんなに見栄えが悪くても買い取ります。無農薬なので安心して皮ごと使えるし、食べられるからです。農家さんへの現金の先払いも行っていました。農家さんにとっては先に現金収入があることで、安定した作付けができます。当時はこうした運動に対し、理解を得るのは難しい面もありました。両親も苦労したと思います」

 

生産者が自立するために、楽市楽座ゆかりの津島でマルシェを始める

大島さん自身は何から何まで両親の考え方に共感し、行動を共にしてきたわけではありません。むしろ、若い頃はその徹底した自給自足の暮らしぶりに反抗して、真逆の生活をおくったこともあったといいます。しかし、社会人になって周りを見渡してみると、食に関心のある同世代の若者はほとんどいないことに気づきました。そして、両親が常々言い続けてきた「食べることは生きること」だという信念を思い出したのです。

大島さんは96年に「りんねしゃ」に入社。弟の飯尾裕光(いいお ひろみつ)さんらとともに店舗の運営をはじめ、「津島農縁塾みんパタプロジェクト」を立ち上げました。津島市は大都市・名古屋の近郊にあるとはいえ、田んぼや畑など豊かな農地が残っています。ここで自給・自足・自立を楽しむ暮らしを提案するのが「みんパタ(みんなの畑)」プロジェクトなのです。

現在は毎週土曜日の10時から14時まで、宇治店近くにある三角屋根の倉庫で「みんパタ暮らしの朝市」を開催。また2011年から愛知県あま市で「甚目寺観音てづくり朝市」、名古屋の東別院でも「東別院暮らしの朝市」を行っています。

りんねしゃを一緒に営む大島さんの弟、飯尾裕光・うらら夫妻は「津島は戦国時代に、織田信長が楽市楽座を始めた所だといわれています。そのエピソードにあやかって、生産者や物の作り手が自立できるようマルシェを始めました」



「りんねしゃ」宇治店の近くの「みんパタ暮らしの朝市」の様子。
「のこぎり屋根倉庫」で毎週土曜日の朝10時から開催。近隣農家や手作りの雑貨など、
暮らしに寄り添う、だれもがふらりと立ち寄れる親しみのある朝市。

みんパタ朝市の会場そばに建つ「イニュニック ビレッジ」。
大島さんの弟・飯尾裕光さん夫妻が経営。
沖縄そばのほか、夏季限定のかき氷がとてもおいしい。

農場でのんびり草をはむ羊。津島市や一宮市、稲沢市、岐阜県羽島市などは
国内でもトップクラスの毛織物の産地として知られる。

 

❝発酵❞から生まれる変化の兆し

エシカル(倫理的・道徳的)でエコロジカルな消費者運動を推進する大島さんは、発酵をテーマにしたイベントも企画・運営してきました。「本草研究所RINNE」の近くに真珠の養殖の母貝として使われるアコヤガイの身を発酵させ、たい肥にしたものを散布することで、切り拓かれむき出しになった土地にまくことで緑化していけたらとも考えているとのこと。

大島さん「エシカルな消費とは自然や社会にとって良いと考えるものを選ぼうとする消費活動ですから、何も特別なことではなく、人として当たり前のことなんです。私がアクションを起こすことで同じように考える人たちが集まってきて、社会が少しずつ変化していくような気がします。『りんねしゃ』は地域の拠点として、これからもそうあり続けたいですね」

 

【事業者概要】
「株式会社りんねしゃ」
代表取締役社長:飯尾純市
取締役副社長:大島幸枝
専務取締役:飯尾裕光
創業:1977年
設立:2000年
所在地:
 ・本社・立込店 〒469-0044 愛知県津島市立込町2-27
 ・配送センター・宇治店 〒469-0008 愛知県津島市宇治町天王前80-2
 ・本草研究所RINNE 〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 本草研究所1
 ・北海道支店 〒099-5602 北海道紋別郡滝上町滝ノ上市街地二条通1-7 
 ・東京オフィス 〒107-0062 東京都港区南青山4-8-21-C
 ・北海道農場 〒099-5612 北海道紋別郡滝上町第2区7線
事業内容:
 ・PB・NB小売 / 無添加食品・有機農畜産物・天然生活雑貨
 ・PB食品卸売 /おからクッキー・雑穀クラッカー・無添加パン・赤丸薄荷オイル・なたね油RIN
 ・PB雑貨卸売 / 菊花せんこう・菊花の防虫スプレー・くすの木せんこう・くすの木しょうのう
 ・医薬部外品 / 天然かとり香MONEもね・ファーブルex
 ・自社農場産品 / 除虫菊・和種薄荷・野菜
 ・スクール / 英会話スクール・太極拳
連絡先: 0567-26-3979(本社)
URL:http://www.rinnesha.com/

 

【取材・文】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎