豊田西高校の生徒が水素エネルギーの実験とトヨタ自動車本社工場の見学に参加
2023.01.31
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、 2023年1月28日に、愛知県立豊田西高等学校の1年生のうち希望者に、水素エネルギーに関する特別授業を行いました。
午前は豊田西高校で、実験授業などを展開する株式会社リバネスによる、水素エネルギーに関する実験授業を行い、5名の生徒が参加しました。
午後にはトヨタ自動車本社工場に移動して、燃料電池車や水素活用に関する見学を行い、12名の生徒が参加しました。
このプログラムは、NEDOが水素エネルギー普及に向けた理解促進活動の一環として、生徒に水素エネルギーについて理解していただくことを目標として実施しているものです。
第1部 水素について学ぶ実験授業
豊田西高校の化学実験室に、実験授業に参加する5名の生徒が集まりました。
はじめにNEDOの新村さんから、挨拶と趣旨説明がありました。
新村)「このプログラムの1回目は昨年11月に、水素エネルギーについて説明する授業をオンラインで行いました。今日の授業は2回目です。3月にはプログラムの成果として発表会をオンラインで行う予定です。
今日は、午前中はこの教室で水素エネルギーに関する実験をしていただき、午後はトヨタ自動車本社工場に移動して見学を行います。
このプログラムを通じて、次代を担う皆さんに水素エネルギーについて知ってただき、興味をもっていただくこと期待します。実験の講師は、リバネスの齊藤さんと濱田さんです。よろしくお願いします。」
続いて、リバネスの齊藤さん、濱田さんによる実験授業が始まりました。
齊藤)「リバネスの齊藤です。私は白血病の研究をしています。水素社会の実現に向けて課題が山積みになっており、多くの研究者がその解決に取り組んでいます。皆さんも一緒に、どうしたら水素社会を実現できるのか、話し合いたいです。」
濱田)「リバネスの濱田です。私はロボット工学の研究をしています。」
濱田)「前回の授業では、エネルギーとは何か、エネルギーを取り出す技術、について解説しました。皆さんは、今日はどのような理由で今日の授業に参加していただきましたか。また、前回の講座を受けてどのような興味を持ちましたか。」
生徒からは次のような発言がありました。
「私は車が好きですが、水素エネルギーで動く自動車に興味があります。また、水素エネルギーをどうすれば効率よく貯められるか、ということに興味を持ちました。」
「街中で水素ステーションを見ることもありますが、エネルギー変換効率などの課題があるので、そういった課題をどうしたら解決できるかということに興味があります。」
「水素については、一番軽い気体、爆発する、ぐらいのことしか知らないので、もっと水素について詳しく知りたいと思い、参加しました。」
濱田)「今日の位置づけは、興味の種を育てるということです。エネルギーに関する知識をインプットして、そこから理想のエネルギーについて、みんなで考えていけるといいと思います。」
濱田)「なぜ水素エネルギーが注目されているかというと、地球温暖化の問題があります。災害が多発したり、水位が上がったりという問題が起こります。今は化石燃料を使って二酸化炭素を排出していますが、二酸化炭素を発生させないエネルギーとして水素が注目されています。燃料電池は水しか出さないため、クリーンなエネルギーと言われています。そう言われても、実感が沸かないと思いますので、水素を実際に触れていただきたいと思います。」
実験1.水素の性質を体験
実際に水素がどのようなものか体験するため、生徒に小型の水素ボンベが配られました。生徒は水素を手に吹き付けたり、においを嗅いだりしました。
実験2.爆鳴気実験
濱田)「水素の燃え方は、次のうちどれでしょうか。①爆発する、②静かに燃える、③どちらもある。どれが正解か、確かめてみましょう。」
これを確かめるために、齊藤さんが「爆鳴気実験」を行いました。この実験で使う器具は、ペットボトルの上部を半分に切り、飲み口部分からガラス管を粘土でつないだものです。ガラス管を上にして、ガラス管の先端を指で塞いで、ペットボトル部分に下から水素ボンベで水素を充填します。指で塞いでいたガラス管の先端部分にライターで点火します。
火をつけると、しばらくは静かに燃えていましたが、やがて「ボン」という大きな音を出して一気に燃えました。着火してすぐは、水素が100%あるため、穏やかに燃えます。燃焼が進むと酸素が混ざり、一気に燃えて爆発するのです。
濱田)「水素の燃焼にはこのように2つの性質があり、穏やかに燃える性質はコンロなどに、激しく燃える性質はロケットなどに活かすことができます。
『水素を燃やす』というと、水素爆弾や原発であったような水素爆発のような危険なイメージがあるかもしれませんが、水素爆弾の核融合は、すごく高い気圧をかけないと起きない現象です。また、水素爆発は、水素があるべきでないところに水素が集まってしまったために起こったもので、水素を逃がせば起こりません。どのようなエネルギーも危険性はあります。水素も、みんなが正しく使う方法を守っていれば、安全に使うことができます。」
濱田)「次は、水素エネルギーを使う実験をします。水素自動車は燃料電池で車を動かします。燃料電池は、水素を水素イオンと電子を分けて、水素イオンだけが通る膜を通して電子を取り出し、水素は酸素と結合して水になります。それでは燃料電池を使って、LED電球を光らせる実験をします。」
実験3.LED電球を光らせる実験
生徒に実験キットが配布されました。水素を貯める栓付きのシリンジ、シリンジから燃料電池に水素を送るチューブ、5セルの燃料電池、クリップコード、LED電球です。
燃料電池をLED電球につなぎます。水素スプレーからシリンジに水素を充填し、シリンジの栓を開放すると、LED電球が光ります。シリンジを押して水素を燃料電池に多く供給するとLEDが強く光り、シリンジを引いて水素を止めると、LEDは消えます。
シリンジに水素を充填する際に、水素スプレーの勢いが強いためシリンジがよく抜けてしまいましたが、回数を重ねるごとに、うまく充填できるようになりました。
実験4.水素エネルギーで車を走らせる実験
模型自動車にモーターが搭載されたキットが配られました。先の実験で使った燃料電池をモーターにつなぎ、先の実験と同じようにシリンジに水素を充填して、自動車を走らせる実験をします。
廊下に出て、3台の自動車を走らせました。1回の水素の充填で5メートルの距離をおよそ2往復することができました。
水素エネルギーについて解説
濱田)「燃料電池は赤と緑で1セットのセルがあります。水素極と酸素極と、水素イオンだけが通るセパレータがあります。皆さんは今日は5セルの燃料電池を使いましたが、実際の燃料電池車は300セル以上を積んでいます。1セルは1Vです。量を増やすことで発電量が増えます。燃料電池車にはシリンジに代わる水素タンクがあり、酸素は外気から採り入れます。燃料電池車MIRAIの燃料電池の出力は100V以上、航続距離は850km以上、70MPaのタンクがあります。充電時間は3分です。今日はこのあと、皆さんはSORAという燃料電池のバスに乗っていただきます。」
濱田)「水素をつくる方法はいろいろあります。工場の副産物、化石燃料、触媒、自然エネルギーを使ってつくる方法です。注目されているのは自然エネルギーで水素をつくる方法です。燃料電池とは逆のプロセスで、自然エネルギーで発電した電気を使って、電気分解により、水素イオンだけを通す電解膜を通して水素を生み出します。課題としては、触媒に用いる素材が高価なことです。つくる際にコストがかかると普及しません。そのため、安価な触媒などの研究が進められています。」
濱田)「水素を運ぶ方法は、液体として、気体として、アンモニアとして運ぶ方法があります。水素を運ぶタンクは、MIRAIのタンクの場合70MPaまで圧縮させて水素を入れています。これは、1㎝四方に700㎏の圧力がかかっても大丈夫な構造です。これは、ピンヒールの上に力士が5人分乗っている状態です。」
濱田)「これで実験授業は終わります。午後のトヨタ自動車本社工場の見学では、今までに得た知識をもとに、皆さんが普段乗っている車やバスとの違い、乗り心地、音など、いろいろなところに気づきがあると思います。」
第2部 燃料電池車や水素活用に関する見学(トヨタ自動車本社工場)
午後は豊田西高校の1年生の有志12名が、トヨタ自動車の量販型燃料電池バス「SORA」に乗車して、トヨタ自動車本社工場を訪問しました。ここでは、トヨタ自動車の社員から、トヨタ自動車の燃料電池車(FCEV)や水素活用に関して説明を受け、見学するプログラムを行います。そのうち本記事では、燃料電池車(FCEV)の見学部分をご紹介します。
1.燃料電池車の移動式オフィスカー
グランエースを元にした移動式オフィスカー。燃料電池車はガソリンエンジン車に比べると静かであるため、移動しながらの会議や仕事もしやすいです。WiFiや衛星通信によってリモートでの執務環境を整備しています。
災害時にはスマートフォンなどの充電スポットとなるほか、避難生活支援や普及を進める指令室となることが期待されます。
参加した生徒は全員、移動式オフィスカーに試乗しました。社内に備え付けられているカメラとディスプレイを使って、2台のオフィスカーに乗っている生徒・先生と、建物内にいる豊田西高校OBのトヨタ自動車社員とで、オンラインミーティングも体験しました。
2.小型燃料電池トラック
コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに食品を配送するような小型トラックの燃料電池車です。冷蔵・冷凍機能を備えており、配送に必要な長時間使用・長距離走行もできるだけの水素を充填することができます。
災害時には外部給電気に接続することで給電が可能になります。外部給電気は直流の燃料電池の電気を交流に変換するため、家電などをコンセントに挿して利用することができます。5kwで半日間の給電ができます。
3.キッチンカー
豪州仕様のハイエースをベースにした燃料電池キッチンカー。後席のキッチンに冷凍庫・冷蔵庫、IH調理器、電子レンジが備えられています。これらも燃料電池で発電した電気を使います。
災害時には電源が無くても調理ができるため、温かい食事を提供することができます。食材の保管・加熱もできます。給電も行うことができます。
生徒は後席のキッチンで説明を聞き、IH調理器で温めた温かいお茶を飲みました。
4.FCVエグゼクティブラウンジ
燃料電池車のエグゼクティブ仕様のマイクロバス。シートは革張りで、窓面はディスプレイになっていて、映像を映し出すことができます。各シートには折り畳みの机が設置されており、移動中でもパソコンを使って仕事をすることができます。
豊田西高校の生徒は、このほかにも水素関連技術に関する見学をして、豊田西高校OBの社員による説明を聞きました。
見学全体を通して、生徒からは次のような感想が聞かれました。
「何億円もするような最先端の装置があり、大企業はすごいと思いました。」
「燃料電池バスは静かで振動が無かった。普段乗っているバスとは全然違いました。」
「燃料電池車は災害時に電力を供給でき、電気の供給が無くても調理もできるため、災害が多い日本に適していると思いました。」
「将来は社会科の先生になりたいと思っていますが、燃料電池車が環境に優しいということを多くの人に伝えたいです。」
「燃料電池車はCO2を発生させないので、将来は町中に燃料電池車があふれているとよいと思いました。」
「水素エネルギーの可能性と活用における課題について学びましたが、課題を解決するために自分が努力したいと思いました。」
本日のプログラムを通じて、参加した生徒は、水素エネルギーについて関心を持ち、その特長や可能性を理解することができました。中には自分の進路と水素エネルギーの接点について考えた生徒もいたようです。
【取材・執筆】
東海最前線 編集部