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東海最前線

野草を通じて自然の魅力を伝える(半谷美野子さん 愛知県犬山市)

2025.01.09

ひと

(半谷美野子さん 岐阜県各務原市 学びの森にて)

(ここが最前線)身近な植物を通じて自然の魅力を人々に伝える

 野草を取り入れた料理や暮らしに興味を持つ人々が増えています。愛知県犬山市在住の半谷美野子(はんや みやこ)さんは、犬山子育て支援団体「いぬやま自然とあそび隊!」のほか「木nezumi~自然ガイド&ナチュラルクラフト」などを主宰。多くの人々に野草を通じて自然の魅力を伝える活動を行っています。

 

五感を通じて自然に親しむ

植物の中でも人間の暮らしに役立たないとされる野草は「雑草」という名前でひとくくりにされ、特に農業に携わる人々からは忌み嫌われています。旺盛な生命力で畑にはびこり、そのままにしておいたら作物以上に大繁殖して除草が困難になりかねないからです。

畑に野草が生えないように、人々はいろいろな工夫をして来ました。草むしりのほかにも除草剤をまいて草を枯らしたり、防草シートや砂利を敷いたり…しかし、そんな野草たちが実は人間の暮らしに役立つこともあり、なおかつ食べられると知ったらどうでしょうか。

半谷美野子さんは野草たちの知られざる魅力を伝え、自然をより身近に感じてもらえるような活動をしています。

1977年生まれ。埼玉と東京で育った半谷さんは、大学卒業後に造園会社に勤務しながら、NPO法人「みどり環境ネットワーク!」を設立。その後、結婚、出産を経て、2006年にご主人の仕事の関係で愛知県犬山市に活動の拠点を移します。

2008年、地元で犬山子育て支援団体「いぬやま自然とあそび隊!」をはじめられます。犬山周辺の森や畑、野外活動センターなどで散歩や水遊び、野外料理などのワークショップを行い、未就園児の親子が五感を通じて自然を楽しめる活動をスタートしました。

半谷さん「造園会社に勤めていた頃は剪定した木の枝を使って堆肥づくりなどもしていました。剪定枝も堆肥にすることで自然に還り、庭にとっても有益なものとなります。こうして自然界に循環を生み出すことは自然を保護するうえでとても重要です。犬山に来て感じたことは、とても緑豊かなところにもかかわらず、自然の中で遊んでいるこどもが少ないことでした。以前の職場では公園管理の一環として、NPO法人の立ち上げにも携わっていたので、息子が2歳の時に、犬山に自然を残していくためには、まず小さい頃から自然に親しんでほしいという思いで「いぬやま自然とあそび隊!」を設立しました。こちらは主に未就園児の親子を対象とした活動ですが、身の回りの自然に触れてもらうことを大切にして、ヨモギを摘んでよもぎ団子を作り、野草を摘んで天ぷらにするなど楽しく活動しています」

また一般の人々を対象に「木nezumi~自然ガイド&ナチュラルクラフト」を立ち上げ、野草料理や自然観察会、アロマテラピーなど、植物や生き物に関するワークショップを年に100回以上開催。県外から訪れるリピーターもいるほどです。

「あいち健康の森薬草園」では6年半前から薬草園スタッフとして勤務(2025年からはアドバイザーとして)し、講座の企画や運営にも携わっているほか、野草や植物に関するコラムの執筆なども行っており、その活動はますます広がりを見せています。

 

活動の原点は「自由学園」

お話を聞いていくうちに半谷さんの活動の原点は、幼児生活団(小学校)から女子高等科(高等学校)まで通った学校法人 自由学園での生活にあることがわかりました。

半谷さん「当時、私の家族は埼玉県入間市に住んでいましたが、自由学園は東京の東久留米市にあったため幼稚園の頃から電車通学をしていました。自由学園はキリスト教の精神に基づいて、クリスチャンだった羽仁もと子さん、吉一さん夫妻によって設立された学校です。自由学園への入学を勧めたのは祖母でした。なんでも池袋の駅の近くを大根を持って歩いている女の子を見てすてきだなと思ったのがきっかけで、その子が自由学園の生徒であることを知ったからだそうです」

学校法人 自由学園を創設した羽仁もと子・吉一夫妻はともにジャーナリストで、羽仁もと子は日本で初めての女性新聞記者といわれています。また家計簿の考案者としても知られ、後に婦人之友社という出版社を創設しました。

1921(大正10)年、夫妻は現在の西池袋に自由学園を設立(1934年に東久留米市に移転)。自由学園の校舎・明日館(みょうにちかん)は、夫妻のめざす教育理念に共感したアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトによって設計、建築され、国の重要文化財に指定されています。

自由学園の現在の教育課程は、幼児生活団(幼稚園)・初等部(小学校)・男子部・中等部(中学校)・高等部(高校)・最高学部(大学)に分かれており、幼児通信グループや45歳以上の大人が学ぶリビングアカデミーもあります。2021年4月に創立100周年を迎えました。故・坂本龍一さんなど各界の著名人も多く輩出しており、半谷さんも自由学園の特集サイト「自由学園100人の卒業生+」(https://www.jiyu.ac.jp/jgs100/hanya.html)に掲載されています。

半谷さん「自由学園初等部(小学校)のコンセプトは『よくみる きく よくする』でした。校舎もみどりの中にあって、幼い頃から畑を耕し、様々な鳥やウサギ、ヤギなどの生き物を育て、お世話をする大変さを学びました。野菜の栽培についても堆肥から自分たちで作るんです。初等部5年生と中等科3年生の時に堆肥係になり、掃除時間は堆肥まみれになっていました。おかげでどんな植物が堆肥になりやすく、何が堆肥になりにくいか、パッと見ただけで判断できるようになりました。自由学園ではさまざまな場面において、“本物に接し、本物を学ぶ”ことを大切にしていました。美術の授業は藝大や美大出身の先生方が来て教えて下さっていて、型にはまらない授業で美術が大好きでした。」

 

好きなものを残す職業につきたい

自由学園で学ぶうち、半谷さんは「自然を守る職業につきたい」と考えるようになりました。半谷さんが好きで守りたいもの。それは「身近にある自然」でした。

半谷さん「生き物が好きで、理科の先生になりたいと考えていたこともあります。入間の実家ではノビルやヨモギといった野草を摘んだりしていましたが、小学校1年生の時、草取り中に担任の先生からカタバミを食べると酸っぱいことを教えて頂いたことは衝撃的でした」

高等科を出た後、自然保護について学びたいと思い、日本大学森林資源科学科へ入学。土壌や大気、建築や水の循環、動植物から環境問題などについて学び、森林インストラクターの資格を大学3年の時に取得しました。「一般社団法人 全国森林レクリエーション協会」によれば、森林インストラクターとは、林を利用する一般の人に対して、森林や林業に関する適切な知識を伝え、森林の案内や森林内での野外活動の指導を行う人のことです。

半谷さん「私が持っている知識の大半は小さい頃から高校生ぐらいまでに得たものです。環境に関心を持ち、自然を好きになってもらうにはどうすればいいか。それには座学だけでなく、ワクワクドキドキするような実体験が必要ですし、生活にも生かすことで身近な緑に関心を持ってもらい、身近な緑があるからこそ、私たちの暮らしは豊かになることに気がついてもらえると思っています」

 

自然が大好きだからこそ、ほかの人にも自然を好きになってもらいたい

半谷さん「ワークショップでは『地元に残る里山を使って何かしてくれませんか』というご依頼を受けることもあります。私はできるだけその土地を生かす方法を心がけています。特別なことや新しいことをするのではなく、衣食に関することなど、昔から地元の人が地元でやってきたことを今の人たちにも理解してほしいのです。ワークショップは森に行って実物を知ることから始めるのですが、キャンプをやっているというような方でも薪に使える枝がわからなかったり、毒草を知らない方も多く驚きます。またネットで見てわかった気になっているお子さんも増えています。すべての野草が食用になるわけではありません。たとえば水仙は全草が有毒ですが、よく似た植物にノビルやニラがあり、間違えて摘んで食べてしまい、食中毒を起こす事故も起こっています。毒草を摘まないためには視覚だけに頼るのではなく、五感を研ぎ澄ませることが大切です」

自然をよく知ることは防災にも役立つと、半谷さんはいいます。

半谷さん「たとえばヨモギを摘んで茹でてヨモギ団子を作ったり、野草を天ぷらにしたり、身の回りにある薬草でお茶を作ったり…災害で食べ物がない時でも、食べられる野草を知っていれば食料になりますよね。避難所生活で食物繊維が足りないという話も聞きますが、そういう時は身近に食べられる野草があることを知っておくのも役に立ちます。ドクダミやビワなどは高濃度のお酒につけてチンキ(ティンクチャ―)にすることで、虫刺されにも効果が期待できます」

野草をおいしく食べるコツは、一度に野草ばかりたくさん摂るのではなく、ほかの食材に少量混ぜることだそう。野草を摘んでいると、自然界にいる生き物たちの姿をつぶさに観察でき、野菜をつくる農家さんに対する感謝の思いもいっそう強くなるという半谷さん。自然が好きだからこそ、自然を守りたい。そのためにはより多くの人たちにも自然を好きになってもらいたい。半谷さんは毎回、そんな思いで活動しています。

 


春の野草プレートランチ

 

 

【半谷美野子さん プロフィル】
半谷美野子さん。1977年東京生まれ。埼玉県入間市出身。森林インストラクター、和ハーブインストラクターほか。幼児生活団から学校法人 自由学園で学び、1996年に同学園女子高等科を修了。日本大学生物資源科学部森林資源科学科に進学。卒業後はアゴラ造園に勤務。公園管理やみどりの環境学習のNPO設立に携わる。2006年、愛知県犬山市に移住。NPO法人「いぬやま自然とあそび隊!」を設立。「あいち健康の森薬草園」などで野草や自然の魅力を伝えるための企画やワークショップ、執筆などを行っている。
Instagram https://www.instagram.com/kinezumiya/

 

【取材・文】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎