桑名市寺町通り商店街の活性化に取り組む佐藤博之さん(三重県桑名市)
2025.04.30

【ここが最前線】次々と新たなイベントを立ち上げて商店街の活性化に取り組む
かつて桑名城のあった九華公園からほど近い場所にある桑名市寺町通り商店街(以下、寺町通り商店街)。南北約200m、アーケードのある商店街には30数軒もの店が軒を連ね、その歴史は大正時代に遡ります。しかし、郊外に大型店が進出。また商店主たちの高齢化が進んだこともあり、次第に商店街の活気は失われていきました。
そこで「桑名市寺町通り商店街振興組合」は、若手メンバーを中心とした「てらまちっく委員会」を立ち上げてメンバーの親交を深め、1953年から行われてきた三八市を中心に寺町通り商店街の活性化に取り組んできました。様々な取り組みが評価され、2015年には中小企業庁による「がんばる商店街30選」に選ばれました。
「桑名市寺町通り商店街振興組合」の理事長であり、商店街活性化のキーパーソンの佐藤博之さんにこれまでの経緯と取り組みについて伺いました。
にぎわう三八市
桑名市街を東西に走る国道1号から八間通りの交差点を南に行くと、アーケードのある商店街が通りの右側に見えてきます。これが寺町通り商店街です。桑名ならではの海産物を扱う店や衣料品店、花屋、呉服屋、和菓子屋、パン屋、仏壇屋、トレーニングジムなどが軒を連ね、近年はクレープショップやフルーツかき氷の店などもできました。また市の特産品や名物などを販売する「くわなまちの駅」も商店街の中にあります。
ところでなぜ寺町通りなのでしょうか。それは商店街の通り沿いにある真宗大谷派桑名別院本統寺をはじめとして周辺にお寺がとても多く、寺院の門前町として栄えてきた歴史があるからです。
桑名別院本統寺は戦国時代末期に創建され、将軍や明治天皇も宿泊したことのある古刹。市民からは“御坊(ごぼう)さん”と呼ばれて親しまれています。
ふだんは静かな寺町通り商店街ですが、三と八のつく日には毎月三八市が開催され、市内外から訪れるたくさんの買い物客で賑わいます。商店街の店に混じって、この時だけ出店する店もあり、商店街の人々はおそろいのピンクの半纏を来て来場者を迎えます。
佐藤さん「お隣の岐阜県海津市からも農家の方々が野菜を出品してくれます」
商店街の入口にたたずむのははまぐりのキャラクター「ゆめはまちゃん」。
はまぐりは桑名の名産で、「ゆめはまちゃん」は夢見るはまぐりの女の子として
2008年の「くわな大物産展」で市のキャラクターに選ばれた。
アーケードが造られたのは1958年。お寺をイメージして作られているのだそう。
桑名別院本統寺の入口は寺町通り商店街に面している
コンセプトは「高齢者にやさしい商店街」づくり
三八市が始まったのは1953年。日本中が戦後の復興で一生懸命になっている時代でした。最盛期の寺町商店街の1日の集客数は約1万5千人だったといわれています。しかし、その後、郊外型の大型ショッピングモールの進出や商店街の高齢化が進んだこともあり、次第に客足は遠のき、商店街から活気は失われていきました。
そこで2003年、行政や専門家の協力を得て、商店街有志で「りにゅうある商店街」を発足。商圏についてのマーケティング調査を実施したところ、商圏内には高齢者が多く、また自転車で15分程度のところに商圏があることがわかりました。その結果を受け、今後はターゲットを絞り、「高齢者にやさしい商店街」を目指すことになったのです。
2005年には60歳以上を対象として、すべての加盟店で割引や景品などのサービスを受けられる「ふれあいカード事業」をスタートさせました。また買い物時に無料で利用できるカートを設置。これらの事業は商店主と顧客とのより親密な関係づくりに貢献し、カートは三八市の時はフル稼働しているそうです。
若手が中心となり、新たなイベントを立ち上げる
こうした一連の活動で、佐藤さんはキーパーソンとして商店街の活性化に取り組んできました。現在は「桑名市寺町通り商店街振興組合」の理事長を務めると同時に、商店街の東の入口に店を構える衣料品店「株式会社日永屋」の代表取締役でもあります。
佐藤さん「日永屋の創業は1933年。祖父が創業し、私は3代目になります。子どもの頃から寺町通り商店街が遊び場でした。同級生もいっぱいいますね。10年以上、振興組合で専務として商店街の活性化に取り組み、理事長に就任しました」
「当時は組合も60代以上の大御所が多く、なかなか若手の意見は通らない雰囲気がありました。そこで若手による『てらまちっく委員会』を立ち上げて会合や飲み会で親交を深めつつ、十楽市などの新たなイベントを立ち上げ、成功させることで存在を認めてもらえるようになってきました」
十楽市は2004年から毎月第3日曜日に開催。若い家族連れ向けに、骨董市とフリーマーケットを中心に、親子向けのマルシェ、ワークショップ、大道芸、夜市など様々な催しを行っています。「十楽市」の名前は、室町時代に商人たちが開いた自由湊(みなと)の「十楽の津」にちなんでいます。
2012年には空き店舗を利用して「くわなまちの駅」をオープン。地元の特産品、土産物、農産物等を販売するお店です。
こうした取り組みが評価され、2015年に中小企業庁による「がんばる商店街30選」に三重県で唯一選ばれました。
買い物客でにぎわう三八市(写真:佐藤博之さん提供)
三八市の様子(写真:佐藤博之さん提供)
三八市の様子(写真:佐藤博之さん提供)
身の丈に合った活動を楽しみながらやることが大切
商店街の衰退はいまや全国的な課題であり、商店主の高齢化による後継者の問題など、寺町通り商店街を取り巻く環境も依然として厳しいものがあります。しかし、そんな中で少しずつではありますが、明るい兆しも見え始めています。美術教室を始めた若い女性や、手作りの子ども服の店、アイスクリーム、雑貨、陶器などの販売を行う店などが現れたのです。
佐藤さん「毎年5月に地域の小学校、中学校を対象とした『てらまち体験学習』を開催することで、子どもたちが親に商店街の魅力を伝えてくれています。地域とのつながりがより密になり、商店街に関心を持ってもらう良い機会になっています」
「7月には夜店、10月には秋祭り、11月には餅つきと、年間通して各種イベントを行うことで利益を出しながら、次の活動につなげていけるようにと考えています。身の丈に合った活動はこちらも楽しいです。地元のお客さんに喜んでいただけるよう、まずは自分たちでやることが大切ですね。」
取材に伺ったとき、寺町通り商店街では濃いピンク色の河津桜が満開でした。この桜はかつて桑名城の外堀だった寺町堀をリニューアルした際に、桑名市の小学生たちが苗を植えたもの。“桑名の春は寺町から”というキャッチフレーズとともに、多くの人々がこの桜を見に訪れます。
戦国時代、“十楽の津”と呼ばれた桑名の町は、座(組合)に縛られることなく、自由な取引や交易が許された交流拠点でした。寺町通り商店街がかつての桑名のように活気あふれる場所になることを願って、佐藤さん達は活動を続けています。
佐藤博之さん
桑名市寺町通り商店街
URL:https://www.teramachi-kuwana.com/
【取材・文】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎