国内最大級のショールームがある老舗ナイフ専門店(株式会社山秀 岐阜県関市)
2024.10.30
【ここが最前線】:ナイフを扱う専門店の先駆的存在であり、実店舗で自分に合ったナイフを選ぶことができる
岐阜県関市は刃物の町として世界的に有名です。そんな中、1940年に創業した「株式会社山秀」はナイフの貿易商社として、輸入ナイフの魅力やその汎用性、実用性などに着目し、世界一流のカスタム・ナイフやファクトリー・ナイフを扱ってきました。現在は創業者の孫にあたる西村陽子さんが3代目社長を務めています。ナイフに特化した理由や商品へのこだわり、今後の展開について尋ねました。
世界のナイフショールーム山秀(写真:山秀提供)
国内最大級のショールームに数千点の世界のナイフがラインナップ
世界有数の刃物産地である関市には、刃物関連の事業所が523社(従業員4人以上 令和3年度 関市役所公式HPによる)あります。
その昔、関は「美濃伝」と呼ばれる日本刀の生産が盛んで多くの名工を輩出してきましたが、刀の需要がなくなるにしたがって包丁や小刀、ハサミといった家庭用刃物の生産が主流になりました。多くは自社による製造・販売ですが、「山秀」は2代目社長の山田敏雄さんの時代に、ナイフに特化した貿易商社として海外の有名ブランドなどのナイフも扱うようになりました。
今では国内最大級のナイフショールームを持ち、ネットオンリーではなく、実際に手に取って選べる実店舗のある店として、ナイフ愛好家の信頼を得ています。
ショールームには世界各国の有名メーカーの商品のほか、ナイフ職人たちの手による唯一無二のカスタムナイフまで、常時数千点がラインナップ。特に種類の多さではほかに類を見ません。しかも店にはナイフに詳しいコンシェルジュが在籍し、ナイフ選びをサポートしてくれます。
西村陽子さん「アウトドアブームでキャンプギアとしてのナイフの需要も増えてきました。ナイフは決してマニアックなものではなく、人々の暮らしに必要な道具として生まれ、発展してきました。ファッションと同じで自分のお気に入りのナイフが見つかればもっと生活が楽しくなるでしょうし、うちはお客さんに喜んでいただける1本を選んでもらえるお手伝いしたいと思っています」
「山秀」のショールーム(写真:山秀提供)
(写真:山秀提供)
(写真:山秀提供)
ナイフは握った時の感覚や使い勝手は一人ひとり異なるので、写真で見るだけでなく、
ぜひ手に取ってみてほしいというのが「山秀」からのアドバイス。
研ぎ澄まされたナイフの美しさも大きな魅力だ。
「山秀」のスタッフたち。左から恵美さん、紀子さん、
陽子さんの長男で今年入社した優一さん、代表取締役の西村陽子さん、マック店長。
初代が始めた刃物屋を2代目が貿易商社に
「山秀商店」は1940(昭和15)年、陽子さんの祖父・山田秀雄さんが美濃市で創業しました。最初は個人商店として刃物の研ぎ直しや贈答品の販売などを行っていたそうですが、2代目の山田敏雄さんは関市にある「三星刃物株式会社」に就職します。
「三星刃物」は1873(明治6)年創業の老舗。他社に先駆けて販路を拡張し、海外取引を行っていました。山田敏雄さんは海外赴任が長く、陽子さんはシカゴで生まれたそうです。やがて敏雄さんは独立。「山秀商店」は「株式会社山秀」として拠点を関市に移し、国内外の優れたナイフを取り扱う貿易商社になりました。
西村陽子さん「最初は店舗ではなく事務所でした。するとお客さんから『ナイフのサンプルを見せてほしい』といわれるようになり、事務所の片隅で小売りをするようになったと聞いています。かなり早い時期から通販も手がけており、楽天ショップや自社のECサイトも立ち上げて、県外のお客さんに広く知られるようになりました。そこで地元の刃物まつりにテントを出して販売していましたが、そのうちに刃物まつりと同時に自社で「ブレードショー」を開催するようになりました。するとたくさんのお客様にご来場いただけるようになったのです」
ナイフには大きく分けて工場で作られたファクトリー・ナイフと1本ずつ職人が手作りしたカスタム・ナイフがあります。「山秀」が扱う商品は種類も多く、さまざまなシーンで役立つ商品を多数そろえているため、ぜひ手に取ってじっくり吟味して選んでほしいと陽子さんはいいます。
「山秀」3代目社長の西村陽子さん。創業者の孫にあたる。(写真:山秀提供)
幼稚園の先生からナイフ屋の社長に 父娘バトルの末に見えて来た未来
ところで西村さん、実家の家業を継ぐことに抵抗はなかったのでしょうか。
西村陽子さん「私はもともと幼稚園の先生をしていました。いずれは友達とコミュニティカフェをやりたいと夢見ていたんです。ところが長男である弟は接骨院を開業し、私の夫は脱サラして公務員になり、ちょうど子育ての最中で実家の事務仕事を手伝っていた私に白羽の矢が立ったのです。それからはしばらく『継げ』『継がない』で壮絶な父娘バトルの日々が続きました(笑)。父はトップダウンのワンマン社長、私は社員一人ひとりの特性や個性を伸ばしてあげたい。企業経営に対する考え方もまったく正反対。でも、ある時ふと思ったんです。世の中、社長になりたくてもなれない人はいっぱいいるのに、私のやってることは世の中の動きに逆行していることになるのだろうかと」
あれこれ思いめぐらしましたが、なかなか結論は出ませんでした。そんな時、ある人から「この会社の何が好きか」と問われ、陽子さんは「人が好き」と答えました。そして、社員一人ひとりが輝ける会社にできるのならと代表取締役になることを決意したのです。
幼稚園の先生をしていた陽子さんにはナイフのことはよくわかりません。そこで、ナイフが大好きで、長年敏雄さんについて海外出張や買い付けに行ったりしていた小栗大輔さんが部長として実務を担当してくれることになり、西村さんは主に経理を担当することになりました。
ナイフは道具 使い込むともっと便利で快適になる
「山秀」にはナイフを求めていろいろな人がやってきます。美濃市の岐阜県立森林文化アカデミーからは授業で発達障害の子どもたちにナイフを使わせたところ、集中力がアップしたとのことで、キッズナイフを求めて来られたとのこと。近年では百年公園とタイアップして防災に絡めての火起こし体験や焚火イベント、ナイフ1本によるサバイバルワークショップなどを開催。「さばいどる」かほなんとのコラボナイフの制作と販売も行いました。今後はナイフや包丁の研ぎ方教室やカフェででの料理教室なども開催していく予定です。
西村さん「ナイフは道具ですから使い手次第。私たちが子どもの頃はナイフで鉛筆を削っていました。そんな時、あやまって自分の指を切った経験のある人もいらっしゃることでしょう。危ないから使わない、使わせないのではなく、痛みがわかるからこそ安全で正しい使い方を覚える必要があるのです。ナイフは決して怖くて危ないものではありませんし、使えば使うほど使いやすくなって、愛着が湧いてきます。ナイフは日々の暮らしの中で私達に便利さやワクワク感を運んでくれるパートナーであり、使い込むほど自分にフィットして快適な道具になっていきます」
サバイバルワークショップの様子。指導しているのは「山秀」店長のマックさん。
カフェをきっかけにナイフの奥深い魅力を伝えて行きたい
この10月、「山秀」はこれまで車庫だったところを改装して「cafe sun」をオープンしました。壁には白頭ワシやヘラジカなどのワイルドな写真が飾られ、無垢のテーブルや本棚、革張りの椅子もシンプルでとてもオシャレですが無駄がありません。ホールは長女の春香さんが担当。家庭的なごはんとお味噌汁、メインディッシュのランチが好評です。
西村さん「10月12、13日に開催した『第24回山秀ブレードショー』の時にプレオープンしたのですが、大勢のお客様で賑わいました。だれもが気軽に入ってくつろいでいただける陽だまりのような空間をめざしています。内装には父が好きだったアーリーアメリカンな雰囲気も取り入れているので、男性のお客様も入っていただきやすいと思います。アウトドアやキャンプの人気で女性のお客様も来てくださるようになり、カフェがきっかけでナイフへの理解がさらに進み、ナイフを愛する人たちの間口がもっと広がればと思います」
今年は長男の優一さんも「山秀」に入社しました。
西村さん「老舗の刃物屋だからこそ、ナイフの奥深い魅力をより多くの人々に伝えて行きたいです。」
店舗はナイフをかたどった看板が目印。
10月にオープンした「cafe sun」。入口はショップと兼用。
【企業概要】
企業名:株式会社 山秀
創業:1940年
代表取締役:西村 陽子
所在地: 岐阜県関市西境町46番地
事業内容:ナイフ及び刃物の販売 カフェ営業
対象年齢:すべての人
時間:月曜~金曜 日曜 10:00~17:00
café sunの営業時間:日・月・木・金 11:00∼18:00(L.O17:00)
定休日:土曜 お盆 年末年始/火・水・土(café sun)
連絡先:0575-24-5000
URL:https://www.yamahide.com/
【取材・文】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎