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日本舞踊の家元が考案した7分でできる効果的なエクササイズ(一般社団法人 日本舞踊スポーツ科学協会)

昨年からのコロナ禍により、ステイホームが長引き、運動不足の人が増えています。
特に足腰の衰えは、身体機能だけでなく、認知機能の低下にも繋がると言われています。

そのような中、自宅で手軽にできる、あるエクササイズが注目されています。
江戸時代から続く日本舞踊・西川流の家元が考案した
「NOSS(にほん・おどり・スポーツ・サイエンス」は、
伝統芸能である日本舞踊の動きを基本とした老若男女が取り組めるエクササイズです。

ここが最前線:日本舞踊の家元が考案した7分でできる効果的なエクササイズ

NOSSは、日本舞踊の大家である故・西川右近氏(※1)と
スポーツ科学の第一人者である中京大学の湯浅景元名誉教授(※2)との
合同研究によって開発されました。

2010年には厚生労働省により介護予防のための
「未来志向研究プロジェクト」に採択され、
2019年には日本医学会総会において、
NOSSが「いつまでも続けられる『生涯運動』」として位置付けられました。

今回はNOSSについて、西川流四世家元西川千雅氏にお話しを伺いました。

西川流家元 西川千雅

PROFILE
西川千雅  日本舞踊西川流四世家元。
      1969年に西川流三世家元・西川右近の長男として生まれ、
      6歳で初舞台、15歳で名取となり、2014年西川流家元四世を継承。

      日本舞踊の他、舞台、ドラマなどの出演、様々なプロデュース活動を行う。
      2016年国民文化祭あいち総合プロデューサー、
      愛知県観光PR団体「あいち戦国姫隊」、名古屋市事業「やっとかめ文化祭」
      などもプロデュースしている。NOSSの普及にも邁進。
      2019年藤田医科大学医療科学科修士取得。
      名古屋外国語大学客員教授、愛知淑徳大学非常勤講師も務める。

 

手術や入院で落ちた体力・筋力を日本舞踊で回復

――先代の西川右近さんは、どのようなきっかけでNOSSを開発されたのでしょうか。

西川)父・西川右近が1992年の9月「名古屋をどり」の公演直前に心臓病で倒れ、
   バイパス手術を受けました。3か月の入院生活で体力が落ち、
   筋力もなくなっていました。
   当時は今ほどリハビリなども整っておらず、
   「心臓に病があれば舞台への復帰は難しい」と言われる時代でした。

   私たちとしては53歳だった父にまだまだ舞踊を続けてもらいたかったし、
   父自身も翌年の名古屋をどりの舞台に立つつもりでいました。
   そんな状況の中、父が日本舞踊の稽古で体力を回復させたことが
   きっかけとなりました。

――ご自身の体験が元なったんですね。
  日本舞踊にはどのような効果があったのでしょうか?

西川)退院後、最初はウォーキングをしたり、ストレッチをしたり、
   無理のない程度に体を動かしていたんですが、なかなか元のようには戻らない。
   それで少しずつ、日本舞踊のお稽古を始めてみると、筋肉が戻ってきて、
   足腰もしっかりしてきた。日本舞踊がリハビリとして効果が高かったのです。

 

日本舞踊の動作を科学的に検証

――そこからどのようにNOSSが誕生したのでしょうか?

西川)中京大学でスポーツ科学を研究され、室伏浩二さんや浅田真央さんなどの
   一流のアスリートを指導していた湯浅景元先生を紹介いただきました。
   湯浅先生は、西洋で生まれたスポーツは西洋人の動きや体質をベースにしており、
   アジア人である日本人には、その体型や体質にあった運動があるのではないか
   という考えから、伝統的な相撲や狂言、祭りといった動きを調べられていました。

   そこで、一緒に研究をやろうと提案していただき、
   そこから、日本舞踊の動きによる酸素の排出量やカロリー消費量、
   筋肉の働きや関節の動きを科学的に検証していきました。

   そして、複数のミュージシャンによって作られた曲
   「この冬(とき)がすぎれば」に乗せて、およそ7分の
   日本舞踊の動きを採り入れたエクササイズNOSSが誕生しました。

――NOSSはエクササイズとしてどのような効果があるののでしょうか。

西川)人間が健康を維持するために必要な運動は、
   有酸素運動、筋肉運動、ストレッチ運動の3種類があります。
   そのすべてがNOSSに含まれていることがわかりました。

   特に、足腰の強化に効果があります。
   筋肉を強化するためには最大筋力の50%以上の負荷をかける必要がありますが、
   NOSSに含まれる、膝を曲げながら腰を沈める動きでは、
   太ももの内側に自然に負荷がかかり、
   足腰の筋肉を強化する効果的なトレーニングになっています。

   また、NOSSの7分のエクササイズで27.5kcalのエネルギーを消費しますが、
   これはウォーキングの1.3倍の運動量になります。
   この時の脈拍の平均は79で、他の運動に比べてずっと低い数値です。
   つまり、通常の運動ほど心拍数も上がることなく、
   心臓や血管に負担をかけずにエネルギー量を消費できる
   運動だということもわかりました。

   (参考)動画「NOSSってなに?2019」 https://youtu.be/ccZxInYG6-o

 

高齢者の健康維持・脳の活性化に役立つ

――NOSSをどのように広げていかれたのですか

西川)NOSSは2008年度に厚生労働省から介護予防のための
   「未来志向研究プロジェクト」に採択されました。
   そこからビデオ教則本を作り、全国5カ所で100人ずつ1年間実施して、
   さらに検証を行いました。
   日本舞踊のお弟子さんたちにもNOSSを覚えてもらいました。

   NOSSをもっと幅広く普及・推進していきたいと考え、
   公益財団法人 日本フィットネス協会とコラボレーションし、
   JAFA教育単位研修会と一緒にNOSSの認定制度を作りました。

   また、厚生労働省指定の健康運動指導士の単位が採れる講座も開講し、
   名古屋、東京、福岡、仙台、金沢などと全国にたくさんの講師が育ちました。
   現在では総勢800名のNOSSインストラクターが誕生しています。

NOSSの演習

――NOSSは介護施設などでも取り入れられるようになったと伺いました。
  反応はいかがでしたか?

西川)大阪でインストラクターとして活躍する岡部由美子さんが、
   NOSSの動きには、高齢者が「立ち上がる」、「移動する」などの動作や
   「ドアノブをひねる」などの細かい手の動きの訓練に効果があると
   教えていただきました。
   そこから、介護施設などでもワークショップを行うようになりました。

   NOSSには「手をポンとたたく」や、
   「木の葉」といって手をひらひらと交差させる動きがあります。
   湯浅先生によれば、通常の生活にない「ひねる」や「ねじる」といった動作が、
   脳に刺激を与え、脳を活性化するとのことでした。

介護施設でのワークショップ

 

足腰の強化に効果がある

――中高年にとってNOSSはどのような効果があるのでしょうか。

西川)現代は日常生活の中で、体を動かす部分が少なくなっています。
   昔は、布団の上げ下ろしとか、照明をつけたり消したりなど、
   手を上げ下げする動きや、雑巾がけのように足腰を折るといった動作を
   日常生活の中でやっていました。
   しかし、最近はそのような日常生活の運動も減りましたよね。

   しかし、父が身体の筋肉量などを測定してもらった時、
   太ももの筋肉は30代と同じだと言われました。
   日本舞踊には、内ももをくっつけ、内股で歩く動きがあります。
   この動作が足腰の強化に効果があると言われました。
   NOSSにはそのような、足腰の強化に効果がある動作も含まれています。

西川右近元理事長によるNOSS(NOSS公式YouTubeチャンネルより)

 

――元気に生涯を終えるために、日ごろからの運動習慣が大切なんですね

西川)80代以上でも筋肉は強化されるという研究結果も示されています。
   いつまでも自分の足で立ち、健康的な生活を送るには、日々の運動が大切です。

 

NOSSを始めるには?

――NOSSを始めるにはどのようにすればよいでしょうか。

西川)NOSSのYouTubeチャンネルに動画が掲載されています。
   まずは、動画をご覧になって、マネをしていただければと思います。
   「日本舞踊を踊ろう」とは思わなくて結構です。「エクササイズ」だと思って、
   見よう見まねで同じような動作をしていただければと思います。

   インストラクターからレッスンを受けて、
   効果的なエクササイズをしたいという方には、
   NOSSの公認インストラクターが全国各地で教室を開催しています。
   最寄りの教室にご参加いただければと思います。

NOSS総踊り オンラインミーティングにて(NOSS公式YouTubeチャンネルより)

   さらに、ご自宅からでもオンラインレッスンが受講できるようになりました。

   NOSS オンラインレッスン
   http://noss.jp/online_lesson/

   NOSSは狭い場所でも気軽に7分でできる、
   自宅でも取り組みやすいエクササイズです。
   健康を維持するために必要な、有酸素運動、筋肉運動、ストレッチ運動の
   3つの運動が含まれています。健康な体づくりのために、
   NOSSにチャレンジしてみてください。

――ありがとうございました。

注釈
※1 湯浅景元 中京大学スポーツ科学部名誉教授
    中京大学体育学部を卒業後、東京教育大学大学院体育学研究科修了。
      その後、東京医科大学で学ぶび医学博士、体育学修士を取得。
      スポーツ科学の第一人者として、イチローや荒川静香など一流選手へのアドバイスや、
      同大学の室伏広治、安藤美姫、浅田真央などへの指導でも知られる。
      著書には「老いない体をつくる」(平凡社新書)、
     「湯浅式ながらトレーニングで若返る」(小学館文庫)他、
      NHK総合「NHKスペシャル」「ためしてガッテン」、
      NHK Eテレ「きょうの健康」などテレビ出演や講演会などを通して
      健康づくりのための運動の大切さの普及につとめている。

※2 西川右近 日本舞踊西川流三世家元
      西川流家元・二世西川鯉三郎の長男として生まれ、3才で初舞台。
        家元を継承し、1981年より「名古屋をどり」を引継ぎ、毎年新しい創作舞踊を発表。
        1988年にはブローでウェイより招聘を受け、アメリカ大陸横断ツアーを敢行。
    2001年文部科学大臣表彰を授与される。
        湯浅景元名誉教授との合同研究により、日本舞踊を用いた健康運動NOSSを開発。
        日本舞踊の振付、出演、指導等の活動の他、 ショーや芝居のステージング、
        ラジオ、テレビの企画・出演、新聞等への執筆など幅広く活動する。2020年12月逝去。

 

NOSS運営団体
一般社団法人 日本舞踊スポーツ科学協会
事務局:〒104-0045 東京都中央区築地2-11-26 築地MKビル7F
   (株式会社ジェー・ピー内)
URL:http://noss.jp/index.php

名古屋西川流
一般財団法人 西川会
愛知県名古屋市昭和区駒方町2-66-1西川会会館
URL:http://www.nishikawa-ryu.com/

 

取材・文・撮影:黒田 直美
旅行代理店に勤めた後、編集プロダクションに入社し、フリーランスに。
企業、PR関連、旅、エンターテインメントとジャンルも幅広く取材。
特に人物インタビューを得意とする。最近は日本文化や歴史にも興味の幅を広げている。

編集:東海最前線 編集部