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東海最前線

名古屋発、全国に広がる駐車場シェアリングサービス「スマートパーキング」(株式会社シード)

ここが最前線ポイント:自動車産業が盛んな愛知県・名古屋市で生まれたシェアリングサービス

 

■拡大する駐車場シェアリングサービス

車に乗る方は誰でも、車で出かけていて駐車したいときに、近くに空いているコインパーキングがなく、停める場所を探して苦労をした経験があるのではないでしょうか。そのとき、付近の月極駐車場や店舗などの駐車場が空いているのが見えて、「ここに停めさせてくれればいいのに・・・」とつい考えてしまった方も、少なくないでしょう。

 

このような空き駐車場をシェアリングして有効活用し、駐車場不足の解決策となるサービスがあります。株式会社シード(名古屋市)が運営する、駐車場シェアリングサービス「スマートパーキング」です。2016年3月にサービスを開始して以来、東海や関東・関西地方を中心に全国に、ユーザーと駐車場台数を増やしつつあります。

 

近年、世界中の様々な分野でシェアリングサービスが急成長しています。自動車に関するものだけでも、駐車場シェアリングのほかに、カーシェア、ライドシェアなどのサービスが生まれ、普及しつつあります。スマートパーキングは、自動車産業が盛んな愛知県・名古屋市で生まれたシェアリングサービスとしても、注目すべきです。

 

 

空き駐車場や使っていない土地などを保有・管理している人は、スマートパーキングを使えば、空いている駐車スペースをすぐにシェアリング(貸し出し)することができます。一番の特長はその手軽さです。スマートパーキングのWebサイトに駐車場を登録し、後日送られてくる専用のカラーコーンを駐車場に置くだけで、シェアリングを開始できるのです。それ以外の機器等を設置する必要はありません。

 

車のドライバー(スマートパーキングのユーザー)は、専用の「スマートパーキング」アプリを使えば、最寄りにあるスマートパーキングの駐車場を探すことができます。アプリでは駐車場の位置だけでなく、空き状況や料金も分かります。

 

車を駐車したときの入庫処理や、使い終わった後の精算・出庫処理も、スマートフォンをカラーコーンの先端にかざすことで行うことができます。カラーコーンの先端にはIoT端末が搭載されており、スマートフォンのBluetooth通信によって、入出庫や精算処理ができます。あらかじめ登録しておいたクレジットカード情報で精算するため、わずらわしい現金による支払いも必要ありません。

▲スマートフォンをカラーコーンにかざして入出庫・精算処理

 

スマートパーキングは、そのユニークな仕組みが評価され、先日、2018年10月31日に組込みシステム技術協会(以下、JASA)が優れた組み込み技術のソリューション等を表彰する「ET/IoT Technology 2018 アワード」において「スタートアップ優秀賞」を受賞しました。

▲ET/IoT Technology 2018 アワード「スタートアップ優秀賞」のトロフィーと賞状

 

■スマートパーキングが生まれた経緯

 

今回、スマートパーキングを運営する株式会社シード 代表取締役の吉川幸孝さんにお話しを伺いました。

▲株式会社シード 代表取締役 吉川幸孝

 

――よろしくお願いします。御社はどのような経緯でスマートパーキングを開発されたのですか?

 

吉川さん「私の父はコインパーキングの運営会社を経営しており、私もその会社で働き、営業やマーケティング、リサーチなどの仕事をしていました。あるとき、営業先の不動産会社から、『10車室ある月極駐車場に2車室の空きがありますが、そこだけコインパーキングにすることはできませんか?』と聞かれました。ところが、2車室分だけでは設備投資や運営の費用を回収することができません。結局そこにはコインパーキングを提供できませんでした。

 

   私はそのとき、『なぜコインパーキングにはこれほど多額の費用がかかるのだろうか』と考えました。設備投資費としては、整地・舗装や看板の他に、精算機やフラップ板などの機器の費用がかかります。また、料金を定期的に回収する費用、機器に不具合がないか点検する費用、不具合を修理・メンテナンスする費用、電気代などの運営・保守費用がかかります。

 

   『多額のコストがかかる機器を使わずに、費用をほとんどかけずにコインパーキングを実現できないだろうか。IoTを活用することで、そのようなサービスを実現できるのではないか。』と考えました。そして、2014年頃から開発を開始しました。」

 

――開発にはどのような苦労がありましたか?

 

吉川さん「どのようにして車の入庫を感知して、課金するかがネックでした、です。入庫を確認するためにセンサーを設置するのは、高額な機器と電力供給が必要となるため、現実的ではありません。頭を悩ませる中で、『運転手はほとんどがスマートフォンを持っている。車ではなく人(スマートフォン)を感知すればよいのではないか』と思いつきました。スマートフォンを使えばキャッシュレス精算もできます。

 

  早速、スマートフォンを使って入庫を感知する方法を、様々な機器で検討しました。用いる機器は屋外の駐車スペースに置くため、風雨に強く、電池が長く持つものである必用があります。試行錯誤の結果、カラーコーンの先端にIoT端末を搭載して、スマートフォンのBluetooth通信によって入出庫や精算処理をする、現在の方式にたどり着きました。」

 

■スマートパーキングの駐車場とユーザーの拡大

 

――2016年3月にスマートパーキングのサービスを開始し、現在は駐車スペースがおよそ1800か所に増えたそうですが、どのようにしてそこまで拡大したのですか?

 

吉川さん「スマートパーキングについて、これまで多くのメディアにとりあげていただきました。新聞などに掲載された記事を見た方が問い合わせて、導入に繋がることが多いです。

 

  導入実績として多いのは、月極駐車場などを管理している不動産会社や、集合住宅の管理会社です。これまで100社以上と提携しています。

 

  その背景に“車を持たないライフスタイル”が広がっていることがあります。大都市を中心に、自動車を持たない人が従来よりも増えています。また、カーシェアやライドシェアも普及しています。そのため、月極駐車場や集合住宅の駐車場の利用者が減り、空きが出ているのです。

 

  月極駐車場では、数車室分の空きがあっても、そこだけコインパーキングにすることができません。また、集合住宅では、一定以上の広さがあれば条例によって駐車場を設置する義務があり、勝手に駐車場を減らすこともできません。そのため、月極駐車場や集合住宅を管理する会社は、空き駐車場の対策に悩んでいるのです。さらに、それらの駐車場に空きがあると、誰かが勝手に駐車する不正駐車に悩まされることもあるようです。」

▲駐車場に設置するカラーコーン

 

――スマートパーキングを導入した駐車場のオーナーからは、どのような感想を聞かれますか?

 

吉川さん「今まで、駐車場の数車室分だけを有効活用できる方法がなくて悩んでいたところを、スマートパーキングによって有効活用できるようになって、喜んでいただいています。また、いつでも初期投資ゼロで始められ、いつでも中止できることも評価されています。月極駐車場や集合住宅の駐車場を契約したい人が現れたときには、スマートパーキングを中止することができます。さらに、スマートパーキングのカラーコーンを設置することで、不正駐車の抑止効果が表れたとも伺っています。」

 

タワーパーキングなどで利用される小型のカラーコーン

 

――ユーザー拡大のためにはどのような取り組みをされていますか?

 

吉川さん「駐車場に設置してあるカラーコーンが看板代わりになり、新規ユーザーがスマートパーキングのことを知るきっかけになっています。カラーコーンにはQRコードが印刷されていて、利用したい人がすぐにアプリをダウンロードできるようになっています。

 

  また、弊社は、全国の様々な会社が運営する5万件以上のコインパーキングの情報から、近隣の最適なコインパーキングを検索して提案するアプリ『パーキングライブラリ』を運営しています。およそ30万人のユーザーがいますが、このアプリでスマートパーキングの駐車場も表示しています。

 

  また、法人と提携して、その顧客等に利用を促進してもらうことも進めています。2018年9月13日には、同じく駐車場シェアリングサービスを手掛けるakippaと提携し、akippaのユーザーにもスマートパーキングのサービスを受けられるようにしました。また、アイシン・エィ・ダブリュのスマートフォン用カーナビアプリ『NAVIelite』で、スマートパーキングの駐車スペースを表示していただいています。ソースネクストのeSHOP会員にもスマートパーキングのサービス紹介をしていただいています。」

▲集合住宅に設置されたスマートパーキング

 

――ユーザーからはどのような声がありますか?

 

  吉川さん「近隣のコインパーキングよりも安く利用できること、現金支払いをしなくて済むことなどが評価されています。ただ、ユーザーの最大のご要望は『もっとコインパーキングの駐車場を増やしてほしい』ということです。このご要望に応えられるよう、駐車場の増加にも注力していきます。」

 

■スマートパーキングの特徴

 

――他の駐車場シェアリングサービスと比べて、スマートパーキングの特徴はどのようなところですか?

 

吉川さん「大きな違いは、『予約の前払い制』か『リアルタイムの後払い制』かということです。スマートパーキング以外のほとんどの駐車場シェアリングサービスは、駐車場を予約して先に料金を支払う『予約の前払い制』です。これらのサービスは、イベントなどに参加する人が駐車場を確保する際に適しています。『予約の前払い制』のサービスの駐車場はイベント会場周辺に多いです。

 

  スマートパーキングは駐車時間に応じた『リアルタイムの後払い制』です。コインパーキングと同じように、予約せずに、空いていれば駐車でき、利用した後に駐車時間に応じてに料金が決まり、課金される方式です。これは、『いつでもどこでも必要な時に必要なだけ駐車できる』ため、日常的な利用に適しています。そのため、スマートパーキングは立地場所に偏りはなく、街中や駅前を中心に、駐車ニーズがある場所なら基本的にどこにでも設置することができます。このため、他の駐車場シェアリングサービスと比べて、スマートパーキングの方が拡大の余地が大きいと考えています。」

 

――最近はバイク専用の駐車場シェアリングも始めたそうですね。

 

吉川さん「新サービスは『バイク駐車場専用シェアリングサービス“Smart Parking for Bike”』と言います。基本的な仕組みは自動車用のスマートパーキングと同じで、駐車場もカラーコーンも同じものを使いますが、アプリの中にバイク専用のメニューがあります。バイクの駐車について承諾を得られた、およそ1700台数分の駐車場をバイクのユーザーに表示させています。また、車の半分ほどのスペースになる、バイク専用駐車場のシェアリングも開始しています。」

▲『バイク駐車場専用シェアリングサービス“Smart Parking for Bike”』

 

■今後の展望

 

――今後の展望を教えてください。

 

吉川さん「目下の課題として、駐車スペースをもっと増やして、ユーザーにもっと使っていただけるようにしたいです。“Smart Parking for Bike”についても、関東地方を中心に拡大を図っていきます。将来的にはスマートパーキングの駐車スペースの利用データを集めることで、近隣の事業者のマーケティングデータとして活用していただけるようにすることも考えています。

 

  駐車場シェアリングサービスは、まだ世間の認知度が低いです。先日はakippaと提携しましたが、他にも競合他社とも協力して、駐車場シェアリングサービスを社会に根付かせるよう、盛り上げていきたいです。

 

  弊社には、スマートパーキングのシステム、パーキングライブラリのシステムと、それらのユーザー、ユーザーの利用データという資産があります。これらを活用して、駐車場シェアリングサービスという社会インフラに影響力を持つ会社になりたいと考えています。」

▲「ET/IoT Technology 2018 アワード スタートアップ優秀賞」のトロフィーを持つ吉川社長