既存の概念に縛られないリノベーションで人の暮らしを変える(岐阜県岐阜市)
2022.09.05
【ここが最前線】建築会社という固定概念に縛られず、新しいことにチャレンジするパイオニア
岐阜市の一角にある旧岐阜町は、戦国時代に織田信長や斎藤道三らによって築かれた旧城下町。江戸時代には商工業の町として栄えましたが、昨今は高齢化が進み、空き家問題などが深刻化していました。
そのような中、昨夏閉店したカフェレストランをリノベーションして、夏季限定のかき氷スタンド「COCON(古今)」がオープンしました。(住所:岐阜市上大久和町25 時間:11時〜17時 水曜休み ※夏季限定営業)
このリノベーションを手掛けてCOCONを運営するのは、岐阜市のリノベーション専門の建設会社、奈良屋建設有限会社。代表取締役の伊藤公也さんは、「これをきっかけに、多くの人々に旧岐阜町を訪れてもらい、これまで気づかなかった町の魅力を再発見してほしい。」と話します。
▲カフェレストランをリノベーションした、かき氷スタンド「COCON」(COCON Instagramより)
伊藤さんは、「建築会社とはこうだ」という固定概念に縛られず、おもしろいと思ったことにチャレンジする、岐阜の建設業をけん引するパイオニアです。今回は伊藤さんにお話を伺いました。
目指すのは想定外の楽しい家づくり
奈良屋建設があるのは岐阜市の南部・茜町。生活道路に面して、グレイッシュブルーのスタイリッシュな事務所兼ショールームが建っています。コンセプトは、家が好きな人が快適に暮らせるための注文住宅。「家とはこういうものだ」という既存の概念にとらわれない、ワクワクする楽しい家づくりを提案するのが、伊藤さんのモットーです。
岐阜ゆかりの戦国武将・斎藤道三ゆかりの「奈良屋」を屋号に独立
伊藤さん「祖父母は親戚が製造していた帽子や岐阜の問屋街で仕入れてきた生活衣料などを、自宅の敷地内に店を建てて販売していました。今でいうなら自宅ショップのハシリのようなものでしたね。実家が自営業だったこともあり、ぼくも最初から、いずれは独立するつもりで仕事を選びました。」
大学の建築学科に進んだ伊藤さんは、卒業後に金華山の麓にあった建設会社に就職。設計・施工を自社で一括して行う会社で、学ぶところは大きかったといいます。
伊藤さん「建築業界は5年から10年スパンで流行が変わります。その会社は、途中からログハウスの建設やOMソーラーなどの仕事に注力するようになり、方向性が変わってしまったので、転職しました。次の会社では鉄筋コンクリートの工法なども学びました。」
その後、2000年に伊藤さんは28歳で独立。社名の「奈良屋」は、岐阜ゆかりの戦国武将・斎藤道三が岐阜に来る前、京都で商いをしていたという油屋の屋号「奈良屋」にちなんだもの。また、横文字を名乗る会社が多い中、客層となる高齢者には漢字の与えるインパクトが大きいだろうと考えたからでした。
営業に苦労しながら販路を開拓
独立はしたものの、最初はとても苦労したという伊藤さん。
伊藤さん「ぼくは図面は描ける。現場監督もできる。でも営業経験がなくて、どうやってお客さんにアプローチしたらいいのか、営業の仕方がわからなかったんです。最初はうちが帽子やアパレル販売をしていた頃のお客さんに声掛けしたりして、口コミで少しずつ仕事をもらっていました。結婚していたので、生活費を稼ぐためにアルバイトをしようと思い詰めたこともありましたが、徐々に仕事が入ってくるようになりました。」
古い固定概念に縛られず、おもしろいことにチャレンジ建築に携わるうえで伊藤さんが考えた自社のコンセプトは、「『建設業とはこうあらねばならない』という固定概念に縛られないこと」でした。
「古い固定概念に縛られて、新しいことを受け入れることのできない会社ほど、切ないことになっていく。ぼくは伝統は重んじるけれど、おもしろいと思ったことにはチャレンジしたい。それがお客さんが暮らしていて楽しい、ワクワクする家づくりにつながる。そう思ってやっています。」
その第一歩が、リフォームからリノベーションに切り替えることでした。
リフォームからリノベーションへ 建築が人の暮らしを変える
「ちょうど今から12年ほど前、それまで大企業の下請けをやっていた施工会社が一斉に元受けになる現象が起って来たんです。たとえば屋根の修理などをやっている会社が自らチラシを打って仕事をとるという。そうなったらもう、価格で勝負はできません。そこで、うちの特徴を生かして何を強みにしたらよいかを考えるようになりました。」
そんな時、伊藤さんは四国のある会社を知りました。そこは県内の古い建物を買い取り、リノベーションによって物件の価値を高め、売却や賃貸をしていました。そうすることで空き家の利活用にもつながり、社会的にも大きな意義があると認められていたのです。
伊藤さん「当時岐阜ではリフォームは行われていましたが、リノベーションという考え方はまだ一般には定着していませんでした。リフォームは、たとえば古くなったキッチンを改修して新しくするとか、もともとの機能を修復するという意味があります。対して、リノベーションとは、既存の建物に新たな機能や価値を加えて、刷新・革新するという意味があります。キッチンをただ修繕して新しくするのではなく、これまでにない付加価値をつけることで、人の住み方や暮らし方を根本的に変革することです。」
▲夫婦ふたりの空間がもっと楽しめるようにマンションをリノベーション(「NARAYA」リノベーション実例 FBより転載)
伊藤さんはその会社を訪れ、ノウハウを学びました。その後、中古物件を購入して自社でリノベーションして販売することに成功しました。こうして伊藤さんは、岐阜の建設業界におけるリノベーションの先駆者として第一歩を踏み出しました。
▲親さんとの同居を機に、より快適な住まいへと実家をリノベーション (「NARAYA」リノベーション実例 FBより転載)
お互いの相性を見極めてから契約
「奈良屋」では施工に際して、個人のお客様に対しては約1時間半じっくり面談をします。希望を聞いたうえで、自社のコンセプトに共感してもらえるかどうかがカギになるといいます。
「リノベーションするうえで、お互いの相性はとても大切。まずは価値観や方針が合うか合わないか、人間性はどうかをお互いに見極めたうえで、契約へと進ませていただきます。ストレスのない家づくりをするうえで、これはとても大切なことだと思います。」
また、「奈良屋」には物件探しから施工まで、自社で一貫して行う「ワンストップリノベーション」というサポートシステムがあります。会社勤めをしながら物件や施工業者を探し、予算の相談や交渉をするのは、大変な労力と手間がかかり、楽しいはずの家づくりが苦労の連続になってしまうことも…それがすべて1ヶ所ですむということはストレスの軽減にもつながり、資金計画なども立てやすくなります。」
これからももっとワクワクする新鮮で刺激的な仕事をしていきたいという伊藤さん。かき氷スタンド「COCON」も、そうした考え方から生まれたものです。
「飲食には以前から興味を持っていました。やる以上は生半可なものではなく、徹底してやる。できたら多店舗やりたいんですよね。お店をやることで、人と人との橋渡しになれたら素敵だなと思います。人が訪れることで町がもっと元気になったら嬉しいですね。」
そう言って、伊藤さんはにこっと笑いました。
▲COCONは大垣市の古民家「ennnoieミドリバシ」で開催される「ミドリのいち」にも出店
【会社概要】
奈良屋建設有限会社
代表者:伊藤公也
設立:2000年
所在地:〒500-8284 岐阜県岐阜市茜町32-1
事業内容:建設業(リノベーション・リフォーム・新築など)
連絡先: info@narayakensetsu.com
電話:058-271-5314
URL https://www.narayakensetsu.com/
【取材・文・撮影】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎