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東海最前線

オーガニックフラワーの普及に努める「種から根っこと葉っぱ」(愛知県名古屋市) 

【ここが最前線】農薬や化学肥料を使わないオーガニックフラワーの普及に努める

近年、オーガニックという言葉は、かなり私たちの生活に浸透してきました。
いまや、オーガニックな野菜は当たり前。
肉や魚についても生産者の顔が見えるサイトで購入する人が増えています。
食に対する関心が高まると同時に、私たちの暮らしそのものを見直そう
という動きが高まっているのでしょう。

しかし、お花の世界ではそうした動きはまだあまり見られないように思います。

名古屋市栄の小さなフラワーショップで、
フラワー&グリーンアドバイザーを営む内山早智子さんは
2011年からオーガニックフラワーを使ったアレンジメントなどを
行っており、その普及に努めています。

「種から根っこと葉っぱ」でフラワー&グリーンアドバイザーを務める内山早智子さん

 

 

ナチュラルなフラワーショップ「種から根っこと葉っぱ」

栄と言えば名古屋の中心の繁華街。
ファッションから飲食店までオシャレな店がひしめく場所ですが、
地下鉄名城線「矢場町」の駅から東に150メートルほどの所に
小さなフラワーショップがあります。

「種から根っこと葉っぱ」という店名もキュート。
生花のほかにもドライフラワーや暮らしを楽しくしてくれる雑貨などを扱っており、
店の雰囲気もナチュラル。普通のお花屋さんとはかなり違います。
何よりお花屋さんに付きものの、冷蔵庫タイプの大きなショーケースがありません。

 

中区栄にある「種から根っこと葉っぱ」。お花屋さんというより、オシャレな雑貨屋さんといった雰囲気

 

 

花に無理をさせない 環境に負荷をかけないお花屋さんをめざして

「お花屋さんらしいお花屋さんにはなりたくなかったんです」という内山さん。
それはどういう意味なのでしょうか。

内山さんは、インテリア関連の仕事がしたくて花の仕事についたとのこと。
昭和60(1985)年から10年間フラワーデザインスクールに通い、
その途中で「沙生(サシェ)」という自分の店を立ち上げました。

すると花選びやアレンジのコツを近所の方に教えてほしいと頼まれたので、
レジのカウンター横でスタート。
ある程度人数が集まるようになったので、小さなメモを店頭に張り出したところ、
すぐに生徒さんが集まったのは嬉しい誤算だったといいます。

当時から一風異なる魅力を持った生花店として”ペールトーンなお花屋さん”と
呼ばれて注目を集めていたそうです。
ペールトーンとはファッション業界では”淡い色”という意味で使われており、
扱っているお花も華奢で野の花のような花が多く、
日常の暮らしにさりげなく彩りを添える、主張しすぎないフラワーアレンジメントを
得意としていたので、このように呼ばれたのかもしれません。

内山さん「『花屋になりたくない花屋です』という本の花屋さんに憧れて、
     東京の吉祥寺にある『4ひきのねこ』というお花屋さんに
     何度か見学に行ったこともあります。

     お花に無理をさせない。環境に負荷をかけないお花屋さんになりたい
     と思っていました。だから花屋につきものの、
     冷蔵庫タイプの大型ショーケースは置いていません。

     お客さんは日持ちのする花を求められるし、
     夏場は湿気や蒸れですぐダメになる花が多いので
     どうしても大型冷蔵庫が必要になってくるのですが、
     考えてみたらそれは不自然でしょ。

     私はお客さんにお花を触ってもらうことが大事だと思っていたので、
     冷蔵庫はあえて置かず、夏は1カ月ぐらい休んでいました。
     おかげで日本で一番休みの長い花屋だと言われていました(笑)」

 

冷蔵庫に入っているお花はなく、店に入ったお客さんが気軽に自分で欲しい花を選べるようになっている。
窓辺を彩るグリーン。店内には暮らしに潤いを与えるヒントがいっぱい。

 

天井から吊り下げられたドライフラワーの束。それだけでシャビ―な雰囲気を醸し出す。横の棚では植物に関する本も販売されている

 

自身のアレルギーをきっかけにオーガニックを意識

当時、内山さんのお店は花だけを見せるのではなく、
いかにセンス良く花を生活の一部として取り入れ、オシャレに見せるか
といったことを心がけていました。まさに時代の先取りをしていたといえるでしょう。

しかし、そのうち、内山さんは自分の花屋としてのあり方に物足りなさを
感じるようになります。
「オシャレな花は素敵だけど、何か違うと思い始めたんです」。
そして、行きついたのが、オーガニックフラワーでした。

オーガニックという言葉は日本語では有機と訳され、
農薬や化学肥料を使わないという意味で、直接肌に触れたり、
口に入れたりするものに使うことが多いようです。
特に近年、子育て世代の若い女性やカップルなどを中心に、
オーガニックに対する意識の高い人たちが増えてきました。
またアレルギー性疾患に悩む人が増加してきたことも、理由の一つかもしれません。

実は内山さんもその一人。長年、花粉症などのアレルギーに悩んできた内山さんは、
まずは食生活の改善からと、食べ物その他をオーガニックなものに変えてみました。
すると、2年ほどで花粉症が改善されたのだそう。

内山さん「以来、自分の花屋としてのあり方についても考えるようになりました。
     このまま農薬まみれの花を扱っていてよいのかと思うようになったのです。」

 

オーガニックフラワー生産者との出会い

「農薬まみれの花」と聞いて、意外に思う人もあるでしょう。
実は市販の花の多くは虫がつかないよう、美しく咲かせるために、
大量の農薬が散布されています。
虫食いの花では商品にならず、見た目の美しさが花の市場価値を決めるからです。
花を育てるのも野菜やお米同様、たいへん手間と労力のかかる仕事なのです。

さて、花屋としてのあり方に自問自答していた内山さんは、一人の農家と出会います。
それは三重県津市に住む橋本力男さんです。
橋本さんは「堆肥・育土研究所」の所長であり、
自ら有機農業やたい肥づくりに取り組んできました。
現在はオーガニックフラワーの栽培にも力を入れています。

内山さん「オーガニックフラワーとして流通させるには、
     花だけ有機・無農薬で栽培してもダメなのです。
     花を栽培する土からオーガニックでなければなりません。
     ですから土壌作りから始める必要があります。」

内山さんによれば、オーガニックフラワーは生命力が非常に強く、
夏場でも水が腐りにくく、嫌な臭いがしにくいとのことです。
多少不揃いで虫が食っていることもありますが、
内山さんから見たら「それも魅力の一つ」とのこと。
普通の生花店なら考えられないことですが、
言われてみればそれが自然な花のあり方ですね。

 

オーガニックフラワーのワークショップの様子
このバッグはやがて土に帰る

 

花の仕事を通して、いろいろな世界が見えてくる

内山さん「経営上の理由から店で扱うすべての花がオーガニック、
     というわけにもいきませんが、できるだけ店に置くことを心がけています。
     現状ではオーガニックフラワーの生産農家さんも全国に50軒ほどしかなく、
     需要が今まで以上に伸びなければ存続は難しいと思います。
     ニーズを生み出すことが重要。
     私の生きているうちにオーガニックフラワーの取扱店がもっともっと
     増えて欲しい。それが夢ですね。」

内山さんはオーガニックフラワーの普及にも取り組んでいます。
「日本オーガニックフラワー協会」の事務局も務めており、
SDGsとフェアトレードをテーマにして栄の「オアシス21」で開催されている
「日曜アトリエ」やこの4月から再開される
「フェアトレードツキイチマルシェ」にも出店。

花の仕事を通じて、いろいろな世界が見えてくるという内山さん。
生産者と販売者、そして使う人を結び付けたいと考えています。

 

手前の丸い二つの花器に敷かれているのはオアシスではなく、ミズゴケ。繰り返しなんどでもアレンジに仕える。
店の前でプランターに植えた花の手入れをする内山さん

 

【会社概要】
創業:大正元(1912)年 
企業名:株式会社花甚
屋号:種から根っこと葉っぱ
URL: http://hanajin.net事業内容:冠婚葬祭や法事の装花・花の小売り・販売・
     フラワーアレンジメントのワークショップ・
     オリジナル花壇の植栽やメンテナンス・オーガニック切花・苗・培養土・堆肥
所在地:愛知県名古屋市中区栄5-12-32 栄サンライズビル1F
TEL:052-251-0471
FAX:052-251-0473
代表者:内山太樹
オーガニックフラワー担当:内山早智子
E-mail:florist@hanajin.net
定休日:火曜 
営業時間:11:00~20:00

 

【取材・文・撮影】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまで
ライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘り
することで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎  https://satoyamakikakunanohanasha2020.jimdofree.com/