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外国人の子どもが言葉の壁を乗り越えるために(にわとりの会代表・丹羽 典子)

2019.01.12

社会・地域

2018年12月に「入管法改正案」が国会を通過し、2019年4月以降、5年間で34万人を上限に外国人労働者を受け入れる予定となりました。しかし、外国人労働者やその家族が日本で生活できるようにするための受入れ対策が不安視されており、各現場で様々な問題が顕在化・深刻化することが懸念されています。

愛知県在住の外国人の数は、平成29年末には24万人以上と、都道府県別では東京都(53万人)に次いで全国2番目の多さです(法務省「国籍・地域別在留外国人数の推移」より)。その分、愛知県は、外国人労働者の受け入れの対策が求められているとも言えます。

重要な対策の1つに「外国人労働者の子どもの教育」があります。そこで今回、外国人の子どもの教育に長年携わってきた方を取材しました。愛知県・小牧市を拠点に、外国人など日本語学習が必要な子どもへの学習支援を行っているNPO法人「にわとりの会」の代表、丹羽 典子(にわ のりこ)さんです。今回は、丹羽さんにお話を伺い、外国人児童支援の現状や、支援の隙間で起こる問題点などを掘り下げます。

▲NPO法人にわとりの会 代表 丹羽典子さん

【プロフィール】
丹羽 典子(にわ のりこ)
愛知県名古屋市出身。
小学校の教員として、外国人児童の教育に携わる。独自の教材やカリキュラムを作成して、小牧市を中心に外国人児童の日本語学習や各教科の学習を支援を手掛ける。2010年に外国人の子どもの教育支援を行う「にわとりの会」を設立、2013年にNPO法人化。2018年に教師を定年退職後は「にわとりの会」に専念し、精力的に活動を行っている。

 

外国人児童の漢字学習を支える「にわとり式かんじカード」

 

——よろしくお願いします。まず、丹羽さんが外国人児童支援に関わるようになったきっかけを教えてください。

丹羽さん:最初のきっかけは1990年頃、入管法の改正とともに、外国人労働者がたくさん入ってきた時のことです。小牧市には工業団地があり、南米などから家族連れの外国人労働者達が定住するようになりました。当時、私は小牧市の小学校で普通学級の教諭を務めていましたが、自分のクラスにも外国人の子どもが入学してきました。私も語学スクールでスペイン語を学び、コミュニケーションをとれるようにして教えていました。しかし、その子が中学生になってからは、どうも調子が良くないという噂を耳にしました。本当は高校に進学したいのに、成績が悪く高校の入学は難しい。中学卒業後は働くしかなく、勉強へのやる気をなくしてしまった、という残念な出来事がありました。
その後、2010年の春に新入生として外国人の子ども達が10人入学することになり、私は学校から“日本語指導加配教員”に任命され、外国人の子ども達に対し、日本語を教えるようになりました。

——具体的にどのような指導を行ったのでしょうか?

丹羽さん:基本は1年生〜6年生までの漢字の読み書きです。日本語は日常生活でも必要ですし、全教科の学習にも必要だからです。しかし、入学してきたこどもは、日本語が話せる子もいれば、日本語が話せず、スペイン語やポルトガル語、中国語などの母語しか話せない子もいて、言語能力もさまざまでした。そんな子ども達がどうやって教えればよいのか、困りました。指導に工夫が必要だと考え、紙に絵を描いたり、一つひとつフリガナを振るなどして、試行錯誤しました。その中で、ほとんどの児童にとって2年生の漢字が「壁」になることが分かりました。

——なぜ、2年生の漢字が「壁」になるのでしょうか?

丹羽さん:1年生の漢字よりも意味的に難しくなり、画数も増えて、覚えるのが大変になるからです。たとえば、『九(きゅう)』と『丸(まる)』は、線が1本増えるだけで全く違う意味になります。しかし、母国語がアルファベットなど表音文字の言語で育った人の中は、『九』という形だけ覚えてしまい、意味と結びつけられない子どもがいます。漢字ドリルをやっていても、意味を理解しないまま形をなぞるだけのケースが少なくありません。1、2年生で学ぶ漢字には、後に出てくる漢字の部首や部品となるものが多いです。ここで基礎を固めておこないと、より難しい漢字が書けなくなります。この「2年生の壁」をどのように乗り越えてもらえるかと、いろいろな検討を重ねた結果、『にわとり式かんじカード』の開発につながりました。
2年生の漢字は1年生の漢字よりも画数が多い文字が多く、配当量も倍になります。1年生の漢字は『山』や『川』などは、絵から作られた象形文字が多いのですが、2年生からはそれを組み合わせた文字が多くなります。漢字が表意文字で、それを構成する部品がその漢字の意味の一部を担います。このことを2年生からは念頭に置いて学んでいくと、画数の多い漢字も覚えることができます。しかし、母国語がアルファベットなど表音文字の言語で育った人は、この特徴を知らないまま、1対1対応で漢字を覚えようとするので、漢字学習がとてもつらくなってしまうのです。意味を理解しないまま形をなぞるだけのケースが少なくありません。2年生の漢字習得時に3年生以降の漢字を学ぶ準備をするひつようがあります。

 

外国人児童の漢字学習を支える「にわとり式かんじカード」

 

▲にわとり式かんじカードのセット

——『にわとり式かんじカード』について教えてください。

丹羽さん:こちらが『にわとり式かんじカード』です。1年〜6年生までに習うすべての漢字1006字を含む712枚のカードを作りました。カードの表面に印刷されているのは、漢字と読み方(音読み・訓読み)・例文・関連イラストです。裏面には、北京語、広東語、英語、ポルトガル語、スぺイン語、タガログ語の6言語に翻訳した例文です。

▲(左)表面、(右)裏面) 

——小学校で習う漢字1006文字を網羅しているのですね。

丹羽さん:1,2年生のカードは1枚で1文字を覚えるように、例文を工夫しました。『一日に一つりんごを食べた』というように、『一』という漢字の音読み・訓読みが同時に学べるのです。3年生以降はカード1枚あたり2~3個の漢字を掲載しています。1文字1枚のカードだと、カードの枚数が多すぎて、学習意欲が減退したしまう。1,2年カードで漢字学習の基礎ができているので、この形で大丈夫なのです。(1、2年257枚、3年103枚、4年119枚、5年118枚、6年116枚。)

このカードからは音声が出ます。専用のペンで例文をなぞると、ペンの先端のカメラがカードに印刷されている目に見えないぐらい小さなドットコードを読み取り、内蔵されているSDカードの何番の音声を出力するか命令が出て、スピーカーからその音声が出てきます。

▲専用のペンで読み取るとペンのスピーカーから各言語の発音が聞こえる

——バーコードみたいなものですね。目だけでなく、耳でも学習できる教材とは驚きです。

丹羽さん:6つの言語の例文も各言語の音声で読み上げます。目の前にある漢字・例文を母語で理解することが大切なんです。母語が分かる人は、母語の意味と結び付けて漢字を理解することができます。母語の読み書きが十分ではない人は、母語のスキルアップにもつながります。

▲にわとり式かんじドリル(1~2年生用) 

丹羽さん:にわとりの会はこのカードに対応する『にわとり式かんじドリル』という教材も開発しました。このドリルは、漢字の並び方に特徴があります。日本の小学校で使う一般的な漢字ドリルは、一・二・三・四……という感じで、意味によって漢字を並べます。一方、『にわとり式かんじドリル』は、画数順や同じ部首・形の似ている漢字を段階的に学ぶことができます。一般的な漢字ドリルに比べると、早い段階で難しい漢字が出てきますが、二画の漢字を正しく書く・正しく使うことの重要性を初期に教えられます。学習を続けていると、次第に漢字の構成や成り立ちが分かるようになります。漢字の音読み・訓読みを同時に学べるなど、かんじカードに共通する点もありますね。これらの教材は外国人向けの日本語教室などに購入していただいています。

——改めて、漢字は奥が深いですね。大人でも書き順を間違えることがあります……

丹羽さん:画数の少ない漢字の書き順はとても大事です。たとえば、『川』という漢字は、左の線から書きますよね。日本人なら何となく分かりますが、外国人はそうもいきません。右の線から書き始める子もいます。何年勉強しても、書き順や漢字の構造を正しく身に付けていなければ、画数が多い漢字は全然書けません。漢字は日本で勉強していくときにどうしても必要です。学習言語の習得には、少なくとも5年かかるといわれています。アルファベットなどの表音文字で学んできた子どもたちは、漢字の読み書きも身につけなくてはいけません。ただでさえハンデを背負っている子ども達にとって、通常の国語教育では時間が足りないんです。

 

「ダブルリミテッド」とは?

 

——先日、入管法改正案が衆議院本会議を通過しました。外国人児童の支援に関わる側として、率直にどう思われましたか?

丹羽さん:日本は、移民に慣れているオーストラリアなどとは違い、外国人移住者の受け入れ体制が整っていません。外国人労働者だけでなく、その家族も増えることが予想されます。このままではダブルリミテッド状態の子どもがさらに増えてしまう恐れがあります。

——ダブルリミテッド状態とは何でしょうか?

丹羽さん:二言語で話せるが、どちらも十分に発達していない状態のことです。にわとりの会は、外国人の子どもたちをダブルリミテッド状態にしない目的で活動しています。たとえば、ポルトガル語が母語の子どもがいるとして、日本に連れて来られたら、当然日本語を学ぶことになります。しかし、母国語さえも完全に習得できていない状態で連れて来られたら、どうでしょう?ポルトガル語も自由に使えない、日本語も分からない状態になってしまいます。
母語が自由に使えなければ、親とのコミュニケーションに問題が生じます。突然帰国したときには、母国での学習が難しくなります。
日本語が使えなければ、日本人とのコミュニケーションが難しくなり、学校の勉強にもついていけません。学力が足りず、高校進学も難しくなります。すると就職の選択肢が狭まり、勉強する気が起きなくなってしまいます。鬱病になって引きこもる子もいます。子どもに対する支援の質で、将来の明暗が決まります。

——子どもをダブルリミテッド状態にする、その責任は誰にあるのでしょうか?

丹羽さん:親の責任でもあり、社会の責任でもありますが、外国人労働者を雇用する会社の責任も大きいです。外国人労働者本人である父親は会社が用意した通訳がいて、日本企業で働いているうちにキャリアが積み重なり、満足感も出てきます。しかし、問題は会社の支援がいき届かない隙間で起こります。

——支援の隙間、ですか?

▲にわとり式かんじドリル

丹羽さん:子育て中の外国人労働者の妻(子どもにとっては母親)が鬱になりやすいです。なれない外国で家に閉じこもりがちになり、外で母語を話すことが少なく、買い物などは不慣れな日本語でコミュニケーションを取るしかない。
子どもは学校の授業が分からず、同級生とも思うように会話ができないので、学校から泣いて帰ってきます。学校で通訳の支援があるところもありますが、なかなか順番が回ってこないので、親は学校で何が起きているのかも分かりません。
子どもは成長すると、日本語こそ話せるようになりますが、母語を忘れてしまいます。親子がコミュニケーションをとることも難しくなる場合があります。母親が鬱になり、子どもがダブルリミテッドになるというのは、実際に起こった最悪のケースです。

——そんな現実があるとは知りませんでした。ダブルリミテッドの問題は、海外でも起きているのでしょうか?

丹羽さん:そうなる可能性はありますが、移民に慣れている国ならそれを防ぐ制度が整っています。たとえば、オーストラリアには移民が生活に不自由しないように支援するサービス、例えば、子どもへのきめ細かい言語教育サービスがあります。本人が希望すれば、高校3年生まで自国の国語教育が受けられると聞いています。アメリカでも、 非英語圏からやってきた子どもへの言語教育の制度が設けられています。その点、日本はまだ本腰を入れて制度を整えていません。外国人の子どもの教育問題を直視しないことが問題なんです。

——子どもをダブルリミテッドにしないために、周りの大人はどのような接し方を心がけるべきでしょうか?

丹羽さん:子どもが保育園などに入園するまでは、母語を育ててあげること。そして、その後も子どもを良く観察することです。国を超えた転校には、とてつもない苦労が付きまといます。母語をかなり身につけている11,12歳の子どもも大変です。母語で学んでいれば、いれば、トップクラスだったのにも関わらず、日本に来たら最下位になってしまう。大人しい子どもほど、それを表に出さないから危ないんです。子どもには何の罪もありません。すくすく育っていた根っこを突然切られたような感覚で、それに水や肥料を与えなければ、枯れるのは当然です。にわとりの会のような支援団体に相談したり、教材を活用したりして、ダブルリミテッドになることを防いであげてもらいたいです。

——ありがとうございました。

 

まとめ

外国人の子どもの教育問題を直視しないことが問題——今回のインタビューの中で、最も突き刺さった言葉です。人手不足が深刻化する日本において、外国人労働者の受入れ増加は、経営者にとっても外国人労働者にとってもWin-Winの関係のように思えます。しかし、その裏には自国から連れて来られる家族、子どもたちの苦悩が伴います。今後、そのような子どもたちが、さらに増えることが予想されます。

この問題に対して、私たちには何ができるでしょうか。まずは、今回紹介したような、外国人の子どもたちの教育問題に関心を持つことが大事です。さらに、地域で外国人の学習支援を行っている団体に、ボランティアや寄付で協力することもできます。

にわとりの会でも、日本語インストラクターや、各学科の指導者のボランティアを募集しています。Skypeなどでのリモート指導もできます。また、翻訳ボランティアや寄付・助成も募集しています。詳細はにわとりの会のWebサイトをご参照ください。

▲ワールドコラボフェスタ(2018年11月10日)の出店ブースにて

【にわとりの会】 https://www.niwatoris.org/