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東海最前線

夫婦愛が生んだシニアのUターン起業にエール!

老後の健康を考え田舎に帰り、起業の決意

その方は、私と名前が同じだったことから、お会いしたその最初から親近感が湧いた。
嫁いでから約40年、横浜に住み、無事にお子さんたちも立派に巣立った。
次は自分たち夫婦の今後を考える番。

長年の都会暮らし、便利ではあるが
とくにご主人の健康面での不安を抱えるようになった今は、
田舎へ移った方が良い。
旦那の代わりに私が今度はがんばる、私が旦那を支えなければ・・・。

そう思ったまさこさんは、調理師免許をとったり、お店で働きながら料理の勉強を続けながら密かに、
自分の店をオープンする夢を具体化に向け、動き始める。

なんと、地元での起業を目指していたのだ。
そして、60歳を機に、ふるさとの新潟市にご夫妻で引っ越し。
生まれた実家を改装し、カフェレストランを開業する。

横浜で積んできた経験を生かし、大人の女性たちが集まる隠れ家的なカフェを地元で・・。
まさに夢の起業である。

さまざまな行政支援も受けながら開業したはいいが、お店は住宅街のどまんなか。
大通りにも面しておらず、人通りもまばらな隠れ家のような一軒家に、
どんなにおしゃれな店を作っても、お客さまにはなかなか来てもらえない。

そんな時期に、まさこさんとお会いすることになる。

店名は「森のマミー」。その方、なんと「もりまさこ」さんというお名前で、店名もそこから。
その名のとおり、森の中にあるようなお庭が素敵で、四季折々の花がお店を彩っている。

一度訪ねてくると、また来たいそんな素敵なお店なのに、
「森のマミー」にはお客さんが来ない。どうしたらいい?というご相談。

いろいろお店への思い、お店の特徴をこと細かに聞き出していく。
お料理は、まさこさんご自慢のボリュームたっぷりのオムライスが看板メニューであるが、
パスタ料理ももちろん日替わりランチやケーキなどもすべて手作り。
そしてお昼だけでなく、夜も営業。夜はお酒やつまみも出すという。

ここまで聞いていて、ふむふむ。まあいわゆる普通に美味しい、普通のカフェレストラン。
いいお店なんだけど、立地は住宅街で・・・。うーん特徴が今ひとつ・・・か。

 

普通のカフェレストランが、着眼点を変えて突然変異!?

「他に、お店に何か特徴はありますか?」
と、質問をする。すると、まさこさんは、ちょっと考えながら

「あまり、関係ないんですけど、店のなかに、主人の趣味のジオラマがあるんですよ。主人が鉄道が好きで、長く住んだ横浜から知らない街に移ってきたので何か楽しみがあった方が良いかと思って、店内の奥に、ジオラマ作っちゃったんです。」

それをきいて、私は興奮した。
「へえ?そうなんですかー。それが、まさしくそれが、売りになりますよ。」

まさこさんの頭には、自分が経営するカフェはカフェ、
ご主人の趣味のジオラマは別という発想であったのであるが、それはまさしく
「ジオラマが楽しめる、隠れ家カフェレストラン」なのである。

ジオラマが楽しめる飲食店は、そんなに例はないし、地方都市には珍しいはず。
しかも、機関車などで鉄道オタクに人気の新津の近くにある新潟のジオラマカフェとなれば、遠方からの来客も見込める。
「ジオラマ見学会をやればいいのでは?新聞社にも情報送って・・・」
そこから、まさこさんにも火が付いた。

そして、夜の集客も問題とのことであったため、お酒のメニューも鉄道や旅を
イメージしたネーミングをおすすめしてみる。
「『恋の片道切符』とか、『青春18きっぷの夢』とかのカクテルがあったら面白いですよね~」
と切り出すと、まさこさんの顔つきが変わった。
これならいけそう、やれそうというやる気の火がついたようだ。

楽しくアイデアを出し合いながら、お店はいつの間にかしっかり個性的な店へと変わり始めていた。

 

メディアにも取り上げられ、来客も増え、経営も安定。

そして、森のマミーでは、ジオラマ見学会を開催。事前に地元紙にもプレスリリースを配信した。
すると告知内容も、当日の様子も両方取り上げられることになった。
開店以後SNSでのみ情報発信をしていたが、マスコミに取り上げられることにより、
鉄道ファンが遠くからもこの隠れ家に足を運び、イベントは大盛況となった。

またイベントの様子をメディアが大きく報じたことで、その後の来店客もじわじわ増えていき、
さらに新聞以外のメディアからの取材問い合わせなどもあり、露出が増え、それがさらに集客に結び付いた。

そして、ご主人も鉄道好きなお客様が来てくれることで、ジオラマを通じ、新たな交流が生まれ、
慣れない街への移住ぐらしも楽しみに変わってきたようだ。

先般、突然お店をたずねた。庭には花が咲き、ちょうどいい季節だ。
まさこさんが、驚きつつ、笑顔で出迎えてくれた。
そして、相談に来られたあの頃から、いろんな挑戦をされたことですっかり
常連客が増え、新たなお客様も増え、大忙しの日々を送っていると笑顔で語ってくれた。

開店してから1年。
還暦を過ぎてからの起業。長年働いてきた旦那を今度は私が支えよう。
そして生まれた町へのUターン。という決断と行動力があってこそ。
そして、その起業の成功の秘訣は、視点を変えての取り組みだ。

家族の趣味をも店の個性にする。そこにファンがいれば、需要があれば、ビジネスに生かせるのだ。差別化ポイントになるのだ。
カフェなど、起業を希望される方が多いが、こんな視点も参考になるかもしれない。

健康長寿社会。シニアの小さな起業もちょっとしたマーケティング視点で
長く楽しく続けられるいいビジネスになる。
地域に愛されるお店として、長く長く続けていただきたい。
こんな例がこれから増えていくのかもしれない。

(協力 森のマミー https://twitter.com/mammy_forest )

筆者 今尾昌子 コミュニケーション・クリエイター
企業のマーケティングコミュニケーションおよび広報活動の指導や支援活動を行う。特に中小企業の発信力強化に尽力。企業相談や勉強会講師はもとより、ラジオナビゲーターとして中小企業の発信の場づくりに取り組むなどユニークな活動も展開。指導してきた中小企業はのべ1000社以上。認知度向上、企業の活性化に現場目線で取り組む。岐阜市出身。
グラン・ルー代表
公式サイト http://www.mahsa.jp