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東海最前線

レトロな宿場町にある静かなブックストア(ハットブックストア 古池弘幸さん/美濃加茂市)

2026.02.04

店舗・施設

【ここが最前線】建築家の視点を生かし、空き家をリノベーションしたスタイリッシュな店舗の書店

 美濃加茂市太田本町はかつて太田宿と呼ばれた中山道の宿場町。木曽川沿いに開けた街並みには太田代官所跡や旧太田宿本陣門などが残り、その中心には江戸時代をほうふつとさせる太田宿中山道会館が建っています。「ハットブックストア」があるのはそんなレトロな街並みの一角。何十年も前からそこにあったかのような既視感を漂わせる、静かで落ち着いた大人の書店です。店主の古池弘幸(こいけ ひろゆき)さんに書店を始めたいきさつなどについてお尋ねしました。

店主の古池弘幸さん。「ハットブックストア」の前で

 

ブックマルシェ「MINOKAMO OTAJUKU BOOK PLACE」を開催

2025年5月18日、古池さんは「太田宿 渡しの広場」を会場としてブックマルシェ「MINOKAMO OTAJUKU BOOK PLACE」を開催しました。

古池さん「『MINOKAMO OTAJUKU BOOK PLACE』は、本屋さんや作家さんなどが行う本の販売を中心としたブックイベントです。本を片手に太田宿の中を散歩したり、木曽川の堤防に座って本を開くような…そして太田宿の歴史的建物も一緒に楽しめるような…そんなブックイベントにしたいと考えていました。屋外のイベントだったのでお天気を心配していましたが、初夏のような陽気になり、たくさんの方に来ていただけてよかったです。」

美濃加茂市で本のイベントが行われるのは初めてでしたが、県内はもとより愛知県からの出店者もあり、いつもは静かな「渡しの広場」も終日、本を求める人たちでにぎわっていました。

MINOKAMO OTAJUKU BOOK PLACEの様子

 

■異業種からの転身 本の輪が広がって書店を開業

古池さんは木曽川を挟んで対岸にある愛知県扶桑町の自宅から美濃加茂市の店舗に通っています。本業は一級建築士で、建築設計事務所のオーナー。そんな古池さんがなぜ、美濃加茂市で書店を開業するに至ったのでしょうか。

古池さん「美濃加茂市のコクウ珈琲さんには以前からよくコーヒーを飲みに来ていたので、まったく知らない町ではありませんでした。また岐阜市には徒然舎(つれづれしゃ ※2026年1月末閉店)というとても素敵な古書店があり、よく訪れていました。そんなある日、徒然舎の店主さんから『岐阜市の美殿町本通りで古本市があるので出てみませんか?』とお誘いがあったんです。そこで軽い気持ちで60∼70冊本を持って出店したのが最初でしたね」

この時、隣で出店していたのが、三重県伊勢市にある古本屋「ぽらん」でした。「ぽらん」の店舗は廻船問屋を営んでいた町屋をリノベーションしたものです。伊勢神宮のお膝元にあるだけに神道関係の本を取り揃えるなど、品ぞろえにも独特のものがあり、県内外の古書店好きにはよく知られた存在です。古池さんは「ぽらん」に誘われて伊勢市の古本市に出店。またそこで知り合った人に誘われて、津市や尾鷲市の古本市にも出店しました。こうして本の輪が広がっていくにつれ、自分でも本屋をやってみようかなという気持ちになったのだそう。

古池さん「直接お客さんとやりとりできる場所がほしいと思っていました。それができる書店は、とても魅力的です」

書店を開くにあたって古池さんが目を付けた場所は、お隣の美濃加茂市。空き家バンクに問い合わせたり、知人からの紹介で空き家を見て回るなどした結果、縁あって今の店舗がある物件にめぐり合いました。

古池さん「私は静かな空間が好きなんですが、今の場所はそれにぴったりで、ここなら面白い書店ができるかもしれないと思いました。大家さんは『好きなように改修していいよ』とおっしゃってくださいました。建物を全部直すにはお金もかかるため、道に面した2部屋を改修させていただき、2021年4月に書店としてオープンしました。まもなく5年目になります」

カウンターで作業中の古池さん

 

一級建築士ならではのセンスと技術を生かした空間

「ハットブックストア」は古本だけではなく、新刊や既刊本、ZINE(自主製作本)や雑貨なども扱っており、本の買い取りもしています。入荷状況は常にインスタグラムやXなどで発信され、そのセンスの良さに驚かされます。

古池さん「最近は独立系書店でも、『一冊取引所』や『トランスビュー』など、本を購入することができる取次さんも増えてきました。昔に比べたら本屋になるためのハードルは下がったといえるかもしれませんね」

古池さんご自身は、建築・デザインや歴史関係のほか、エッセイなどを読むことが多いそう。店舗の各所には建築士としての古池さんのセンスが光っています。

まず、入口はドアではなくレトロな引き戸、そしてアンティーク調の電灯、さらに周囲の板壁に溶け込むような「HUT BOOKSTORE」のネームプレート。どれも主張しすぎないシックな風合いで、歴史ある宿場町にそっと息づいています。

入口から入って左手にある小部屋はギャラリー。ペンダントライトがもたらす優しい淡やかな灯に照らされた空間では、絵画や現代アート、詩歌、工芸などの展示販売もできます。また本屋の壁面を利用して作品の展示販売なども行われています。

本の売り場から一段高い所に設けられたカウンター。奥は「古池建築設計事務所」になっており、時には建築についての相談なども行われています。

天井の梁の上には古池さんが作った建築模型が並べられるなど、あちこちに一級建築士ならではのセンスと技術が光っています。

かつての宿場町の通りに面して建つ、古民家を修復した店舗。まるで隠れ家のよう。
近くにはコクウ珈琲などもある。隣の花屋さんもアンティークな装いで素敵

手前がカウンターで、売り場よりも一段高い所にある。
左上の梁の上には古池さんが作った建築模型が並べられている

書店スペースはこじんまりとした図書館のような雰囲気。
一目でどこにどの本があるか、とてもわかりやすい。新刊も古本もある。

入口横にあるギャラリー。これまで写真展や朗読とうたによる
小さなLiveインスタレーションなどが開催されてきた

 

可児市の「ala(アーラ)」で映画の上映会を開催

2025年12月6日(土)、古池さんは美濃加茂市の隣にある可児市の「ala(アーラ)」(可児市文化創造センター)で、「アーラ映画部」の人たちと共に、映画「ジュンについて」の上映会を開催。この映画は、東京の吉祥寺にあるひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんの姿を580日間にわたり、記録したものです。上映会には島田さんも登壇され、イベントは好評のうちに幕を閉じました。

古池さん「これは本当に1年がかりのイベントでした。『ala(アーラ)』にはアーラ映画部(旧:アーラ映画祭実行委員会)というのがあって、映画を通して地域の繋がりを深めようという活動をされています。この映画は自分が見たいと思っていたところ、映画部の部長さんとお話をしていたら『自分も見たい』と仰ってくださって、それから少しずつ準備を始めました。多治見の図書館では映画のコーナーを作ってくださいましたし、夏葉社さんもチラシを入れてくださるなど、いろいろな方に協力していただきながら当日を迎えることができました。SNSでの発信も大きかったと思います」

上映会では夏葉社の島田さんと監督の田野隆太郎さんのトークショーも行われ、書籍だけでは知ることのできない島田さんの横顔を垣間見ることもできました。

古池さん「『夏葉社』はいわゆる独立系出版社の草分け的存在で、『何度も読み返される本を』を目標に掲げて出版事業をされています。その姿勢が好きで、うちでも置かせていただいていますし、映画上映と夏葉社の16周年を記念して、『夏葉社の50冊』パネル展を開催させていただきました。全国の方にもっと島田さんのことを知っていただきたいですし、夏葉社さんの本を読んでいただけるとうれしいですね」

本屋としての活動もまもなく5年目を迎え、固定客も増えてきました。往年の宿場町にも「ハットブックストア」をはじめ、花屋やチョコレート屋といった新しい店も増えてきました。

古池さん「本を買ってコーヒー屋さんでのんびり買った本を読んだり、旧太田宿の往来を散歩しながら歴史について思いを馳せたりする…そんな時間の過ごし方もいいのではないでしょうか」

「ハットブックストア」は歴史ある美濃加茂の街に新たな風を起こしつつあるのかもしれません。

江戸時代の宿場町を思わせる美濃太田の街並み。すぐそばを木曽川が流れている

 

【店舗概要】
HUT BOOKSTORE ハットブックストア
〒505-0042 岐阜県美濃加茂市太田本町二丁目4-8
営業時間:12:00~19:00
定休日:火曜、水曜、木曜
HP:https://www.hutbookstore.com/

 

【取材・文】
松島 頼子
岐阜県出身。岐阜県を拠点に約20年、地域の活性化から企業家インタビューまでライターとして幅広く活動。実家はお寺。地域の歴史や文化、伝説などを深掘りすることで、まちの活性化や地域を見直すことにつなげたい。
「里山企画菜の花舎」 代表
里山企画菜の花舎