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中日本航空専門学校はどう変わるのか?中村寿志新校長に聞く。

2022.06.08

学術研究

1970年の創立以来、航空業界で活躍する人材を輩出してきた中日本航空専門学校は、
2022年4月に新しく校長に中村寿志氏が就任しました。
そこで、中村校長にこれからの中日本航空専門学校について、
インタビューをさせていただきました。
来年度(2023年度)の学科再編、今年度(2022年度)のICT教育や
バーチャルリアリティ(VR)を用いた実習をはじめ、
学校全体や各学科の新たな取り組みについてお聞きすることができました。

中日本航空専門学校
中村寿志校長

 

中日本航空専門学校 校長
中村寿志(なかむら ひさし)略歴
鹿児島県出身
1980年3月 中日本航空専門学校 航空整備科 卒業
1980年4月 中日本航空専門学校 航空整備科 副手
2015年4月 中日本航空専門学校 航空整備科 教授
2022年4月 中日本航空専門学校 校長に就任

 

1.中日本航空専門学校はどう変わる?

中村校長)こんにちは。中日本航空専門学校の新校長の中村寿志です。
     私は、航空整備科の卒業生の1人で、私が入学したのは昭和55年になります。
     それから約40年ほど航空整備科の指定養成施設の教員として、
     学科と実技の教育に携わり、現在に至っております。

――中日本航空専門学校の特長を教えてください。

中村)本校は2020年に創立50周年を迎えました。
   この50年の間に、本校は変わらないことが一つあります。
   「技術者たる前に良き人間たれ」という学園の建学の精神です。

建学の精神

   これは、技術というものは、使う人の人間性によっては
   いいところもあるし、悪いところもあると、
   すなわち人間性を重要視する教育がずっと培われてきております。
   これについては本校の大きな特長だと私は思っております。

   実際に、人間性を涵養する教育として、各年次において、
   人間学1、人間学2、人間学3という一般科目の授業を通して、
   実践していく教育を行っています。

――2023年4月から学科が再編されるそうですね。どのように変わりますか。

中村)これまでの50年の歴史の中で培ってきた技術、
   各企業様からフィードバックされた導きを教育に反映して、
   これから二つ大きな改編がございます。

   一つは、航空整備科に現在ある航空電子コースを、
   「航空ロボティクス科」という学科に改組します。
   もう一つは、従来の航空生産科を「エアロスペース科」という
   名称に変更するということです。

   動画:1.中日本航空専門学校はどう変わる?
   動画時間:2:54
   https://youtu.be/Ae8mlwFXWSM

 

2.航空ロボティクス科とは?

―――航空ロボティクス科は、どのような背景で新設されることになりましたか。

中村)航空整備科は、本校が関市に移転してきた昭和51年に開学しました。
   当時は航空電子、いわゆる航空機を使って電気電子の技術者を養成するという、
   当時では最先端の教育を行っており、他の航空専門学校や類似の学校には、
   航空機を使って電気電子の技術者を養成するという学校はありませんでした。
   この間、航空電子は、非常に大きな技術革新が加速して進んでおります。

   これからは、一つは時代のニーズとして、労働人口が減ってきます。
   それに対応するために、ロボット、いわゆる協働ロボットが
   広く社会に普及してくるはずです。普及するということは、
   実際にそのロボットを現場で保守メンテナンスする業種が
   必要になってくると我々は考えています。

協働ロボット

 

   本校は今まで教育の中で培ってきた「3つのC」 というものがあります。
   それは、Communication(コミュニケーション)、Computer(コンピューター)、
   Control(コントロール)です。本校はこれを教育の柱として教育しております。

   本校はこれら「3つのC」のノウハウを生かして、ロボットのエンジニアや、
   次世代モビリティのドローンや空飛ぶクルマのエンジニアを養成するために、
   航空ロボティクス科を開設することになりました。

ドローン実習

―――航空ロボティクス科では、どのような教育をされる予定ですか。

中村)現在の航空電子コースで教育を行っている航空電子分野、
   ドローンや空飛ぶクルマなどの次世代の技術分野、
   さらにメカトロニクス分野、この三つの分野に対しての教育を充実させて、
   幅広くこれからの時代を担っていくエンジニア(技術者)を
   養成したいと思っております。

空飛ぶクルマのイメージ

 

―――航空ロボティクス科の卒業生は、どのような分野で活躍することが
   期待されますか。

中村)新しいモビリティ、ドローンや空飛ぶクルマは、
   もう実証実験も始まっております。本校はこれまでの歴史の中で、
   航空電子の分野では非常に実績を持っております。
   新しいこれらの技術分野の方で活躍することをとても期待しております。

―――工業科ではなく普通科の高校を卒業した生徒でも、
   航空ロボティクス科の授業について行けますか。

中村)ついて行けます。航空ロボティクス科のカリキュラムを作る上で、
   1年次は基本的な工学の勉強をするためにシラバスを見直しました。
   1年次は、実習を交えながらも知識面を強化します。
   2年次にはそれをステップアップして、知識を実習を通して定着させます。
   3年次はさらに1年次・2年次で得た知識と技術を着実に身につけて、
   企業の現場に出れるような仕組みをとっています。
   卒業時に卒業研究というプレゼンを行い、プレゼンの内容を
   教員が評価する仕組みをとっております。

ドローン制御実習

 

―――航空ロボティクス科には、どのような学生に関心を持ってほしいですか。

中村)次世代の技術、ロボットとかドローンや空飛ぶクルマについて、
   少しでも面白そうだなと感じていただければ、
   ぜひ今年のオープンキャンパスに来て、自分の目で見ていただいて、
   何かを感じていただければ、より一層自分の夢に近づきます。
   ぜひオープンキャンパスに来ていただいて、
   教員と一緒に将来の夢を語っていただきたいと思います。

動画:2.航空ロボティクス科とは?
動画時間:5:16
https://youtu.be/et6dPqqc8m8

 

3.エアロスペース科とは?

―――エアロスペース科は、どのような特長の学科になる予定ですか。

中村)現在は「航空生産科」という名称の学科です。
   学科名を変更するに至った理由は、教育連携を行っている
   工業高校の生徒さんにアンケートをとりました。

   航空生産科よりエアロスペース科という名前の方が、
   航空と宇宙に関する教育を行う学科ということが伝わる、という結果が出たため、
   エアロスペース科という学科名に改称することにしました。

―――従来の「航空生産科」とは、どのような違いがありますか?

中村)従来の航空生産科は航空機の、主に設計製造の技術を勉強する学科でした。
   一部、宇宙分野についても教育を行っていましたが、
   さらにこの宇宙分野を強化していくために、ロケット工学等の宇宙分野の科目を
   充実させるようにカリキュラムを作り込んでいます。
   そこが一番大きな特長かと思います。

ペットボトルロケットによる模擬人工衛星打上実習

 

   いわゆる航空機の製造の教育については、現在 RV-4という
   ホームビルディング機を航空生産科の学生たちは製作しております。
   航空機の生産において、「艤装」という、計器類・操縦系統・エンジンなどの
   装備品を航空機に取り付けるという工程があります。
   今後は艤装によって、最終的に本当に飛べる状態の飛行機にするまでの
   教育を充実させます。

RV-4製作実習

 

―――エアロスペース科では、どのような教育をされる予定ですか。

中村)実習科目については、メーカーさんの協力をいただきまして、
   実際の現場で行うような、ジェットエンジンを
   オーバーホールする工程を、実習に取り入れます。
   ジェットエンジンを分解検査、組み立て修理も含めて、
   一連の流れで体系的に実習を行うようにいたします。

   単純に分解組み立てをするだけではなくて、分解した部品の計測、
   長さを測ったり、磨耗しているのかどうかを検査をしたり、
   メーカーさんがやっているような非破壊検査、
   つまり、部品を分解せずに X 線を当てて、内部の欠陥を発見するという検査も、
   工程の中に取り入れて、メーカーさんが行っているジェットエンジンの
   オーバーホールに限りなく近い実習となるようにカリキュラムを
   作り込んでおります。そこは従来の実習をさらに強化したところになります。

   もう一つは、次世代のモビリティの一つに、宇宙機というものがあります。
   宇宙機というのは、今、国を挙げてプロジェクトが動き始めるところでして、
   簡単に言うと、飛行機とロケットを合わせたような乗り物です。

   普通は人工衛星というのは地球の周りを周回する軌道を描きますが、
   空港から打ち上げて、上空約100キロぐらいのところに到達すると、
   そこから目的地まで飛行して、また目的の空港に降りるという、
   すごくスピード化が図れる乗り物です。
   そこは今後活躍できる場ではないかと考えています。
   宇宙工学やロケット工学を取り入れた教育を行っていきます。

炭素繊維系複合材(CFRP)部品成型実習

 

―――エアロサービス科の卒業生は、どのような分野で活躍することが期待されますか。

中村)現在の航空生産科、新しいエアロスペース科では、
   航空機の検査技術や宇宙機のフィールドで活躍する人材を
   養成していきたいと思っております。
   特に強化するのは宇宙分野の技術者としての進出です。

―――工業科ではなく普通科の高校を卒業した生徒でも、
   エアロスペース科の授業について行けますか。

中村)「宇宙」という話をすると、どうしても
   「ちょっとレベルが高いんじゃないか」という心配があるかもしれません。
   今の航空生産科のカリキュラムの中にも、専門科目の教育と合わせて
   「補完教育」というものを行っております。
   それは、数学的な知識が必要な「数学Ⅰ」と、
   工学的な特に物理系の知識が必要な「物理Ⅰ」という科目を入れながら、
   専門科目に移行できるようにカリキュラムを組んでおります。

   ですから、まず何よりも航空機の設計製造と宇宙分野に興味があるということを
   大事にしてもらって、あとは我々の方で各年次で段階的に各年次が定めるレベルに
   到達するように教育を行いますので、全く心配ありません。

―――エアロスペース科には、どのような学生に関心を持ってほしいですか。

中村)新しいモビリティが登場する航空、宇宙の分野に興味のある生徒さんには、
   ぜひオープンキャンパスで、実際に物を見てもらって体験してもらって、
   自分の進路の一つとして欲しいと思います。

動画:3.エアロスペース科とは?
動画時間:7:00
https://youtu.be/bNQsSmTrEGo

 

4.学科の新設・改称以外のトピックス

―――航空整備科では、どのような動きがありますか。

中村)航空整備科につきましては、課程を大幅に変更して、航空整備科に入学すると、
   二等航空整備士の3機種の資格、飛行機ピストンエンジンのコース、
   飛行機タービンエンジンのコース、ヘリコプター タービンエンジンのコース、
   この3つのコースのいずれかの資格が取得できます。

   それともう一つは、産学官連携で既にもう2期生まできていますが、
   エアライン(ANA・JAL)整備士養成コースです。
   企業とのインターンシップによって、学校を卒業した後、
   企業で2年間の訓練を受けて、
   最短でボーイング737型機の一等航空整備士の資格を取得するコースがあります。
   4機種の一つはインターンシップ先で取得する資格になりますが、
   4機種の資格が取れる学科に改編します。

   エアライン(ANA・JAL)整備士養成コースについては、
   在学中に二等航空運航整備士飛行機ピストンの資格を取って、
   3年次に大型機について、 ANA様、JAL様と連携しながら教育して、
   卒業した後に会社の指定養成施設で、一等航空整備士の資格を取得する
   というスキームになっています。
   在学中には二等航空運航整備士の資格を取得することになります。

―――エアポートサービス科では、どのような動きがありますか。

中村)エアポートサービス科も実は大きな教育の改革があります。
   バーチャルリアリティを教材を使った実習が始まっています。
   大型旅客機のトーイングカートレーラーで機体をスポットから出す、
   という作業については、実は在学中には実務ができません。

   そこで、実際に企業が訓練で使っているシステムと同じ、
   VR のゴーグルを使って、大型旅客機の牽引やプッシュバック操作を行う
   教育展開を始めることにしました。

   トレーラーの中にバーチャルリアリティの教育システムが入っており、
   学生は天候に左右されず実際の現場と同じ環境の中で大型旅客機の
   牽引・プッシュバックの訓練を行うことができる、
   非常に画期的な教育システムを導入して訓練を行っています。

VRを用いた大型機のプッシュバック実習

 

―――そのほかに、中日本航空専門学校の新たな取り組みはありますか。
中村)中日本航空専門学校の大きな取り組みとしまして、
   ICT 教育を加速化させて教育を始めます。既に2年前のコロナ禍において、
   本校ではオンライン授業を構築して2年が経ちました。そのノウハウをベースに、
   2022年度生から全員にiPad を配布することにしました。

   教育の ICT 化については、既にコロナ禍において、
   ハード面いわゆるコンピューター、プロジェクターは設備を投資しております。
   それとあわせてソフト面では、教育用の実習作業の動画や、教材の動画、
   また自習教材として CNAドリルというものを準備しております。
   これは就職試験にも対応できるような内容となっており、
   これらの ICT 教育を進めることによって、教育の質の向上を図り、
   今後さらに ICT 教育を充実させていく予定です。

iPadで図面を見ながら実習

 

―――中日本航空専門学校に関心がある高校生や保護者の皆様に
   メッセージをお願いします。

中村)私の学生時代は、ちょうど航空機が大型化して、
   大量輸送の時代の幕開けでした。
   現在は、航空技術の進歩は目覚ましいものがあります。

   これからの50年、どう技術が進歩していくかというと、
   既に今、環境に優しい航空機が登場しております。
   また、バイオ燃料、いわゆる石油系の燃料を使わず二酸化炭素を削減する
   新しい燃料が登場しています。
   それと、先ほども申し上げましたように、次世代のモビリティですね、
   ドローンや空飛ぶクルマです。

   この50年という時間は長いようで、技術の進歩で見るとすごい駆け足で進み、
   私達が学生のときに考えられないような乗り物や燃料が登場してきます。
   次世代に向かって、少しでも航空や宇宙に興味があれば、
   ぜひオープンキャンパスに来ていただいて、それぞれの学科で
   教育に携わっている教員ととことん話をしてもらって、
   その先は本校で学んでいただきたいと強く思っております。

―――航空分野の企業の皆様にメッセージをお願いします。

中村)これまで50年の間に各企業様からのご支援をいただきまして、
   本当に感謝しております。これからは、社会に出ても自分の力で
   未来を切り開いていけるような学生を育成していくということを
   常に考えております。もう一つは、これからも企業様から
   必要とされる学校であり続けたいと思っております。
   引き続き、私達も「技術者である前に、良き人間たれ」という
   建学の精神に基づいて人材を輩出していきますので、
   どうぞよろしくお願いいたします。

―――ありがとうございました。

動画:4.学科の新設・改称以外のトピックス
動画時間:7:24
https://youtu.be/gUyAdh1hU2w

 

学校概要
学校法人神野学園 中日本航空専門学校
URL:https://www.cna.ac.jp/住所:〒501-3924  岐阜県関市迫間字吉田洞1577-5
Tel:0575-24-2521
Fax:0575-22-9816

 

取材・編集
東海最前線編集部