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東海最前線

出産・育児に向き合う女性に伴奏したい 奥村佳子(バースアテンダント/助産師)

2018.07.30

ひと

奥村佳子
バースアテンダント/助産師
つなぐプロジェクト 代表理事
ママ・ベビーサポートおくむら 代表

出産・育児は、かけがえのない命を育む大切なことですが、出産・子育てに向き合う多くの女性が、誰にも相談できずに悩んでいます。助産師として25年間の勤務を通して、そのような実態を目の当たりにしてきた奥村佳子は、出産・子育てに向き合う女性に伴奏する「バースアテンダント」として、岐阜県羽島郡笠松町を拠点に相談を受け、ケアを行っています。この地域に止まらず、「バースアテンダント」の存在を全国に広めようとしています。

ここが最前線ポイント:産前・産後の女性に伴奏する「バースアテンダント」を実践し、それを全国に広めようとしている

●妊娠・出産や育児に向き合う女性をサポートする
――現在の取り組みについて教えてください。

私は助産師として25年間、病院の産婦人科で働いてきましたが、病院の産婦人科が母親をケアをするのは出産直後までであり、産後は対象にしていません。 行政も、産後の母親のケアとして、一人ひとりの個別の事情に合わせた きめ細やかなケアまではできません。そのため、多くの出産後の女性は、誰にも相談できずに一人で悩んでいます。

このような現実を目の当たりにして、私は「出産後、育児に悩む女性をサポートしたい」という思いがこみ上げてきました。しかし、当初はどのように取り組めばよいかが分かりませんでした。そこで、岐阜商工会議所が主催する「女性起業塾」を受講し、また岐阜県産業経済振興センター主催の「起業家育成塾」にも参加しながら考えました。

そして出産・育児に悩む女性をサポートする事業として、2015年7月に「ママ・ベビーサポートおくむら」(岐阜県羽島郡笠松町)を立ち上げました。主な事業として、出産・育児に関する相談や母乳相談、乳房ケア、アロママッサージ、エクササイズ、各種講座などを開催しています。3年間で200名ぐらいの妊娠・出産・子育てに不安を抱えた女性に向き合ってきました。

事業を行う中で、現在の地域社会は、かつてのように、近所どうしが一緒に子育てをするような関係ではなくなり、子育てをする女性が地域から孤立しやすくなっていることに気づき、子どもや母親を見守る地域をつくる必要性を感じました。また、妊娠・出産・育児について、昔の誤った知識、間違った情報や偏った考え方が溢れているため、正しい情報を女性や家族に伝える必要があるとも感じていました。

これらの課題に取り組む団体として、2017年5月にNPO法人「つなぐプロジェクト」を設立しました。これまでは様々なイベントを開催して、地域のネットワークづくりを進めてきました。 2018年度は6月18日から「これからもうすぐママセミナー」という20回の連続講座を開催しています。助産師、社会保険労務士、歯科医、柔道整復師、栄養士、臨床心理士など、地域の各分野の専門家が講師となり、出産や育児に関する知識や実践方法を説明します。この事業は独立行政法人福祉医療機構H30年度のモデル事業です。

これからもうすぐママセミナー(笠松町中央公民館)

●バースアテンダントとは?
――バースアテンダントとはどのような意味ですか?

英語で「Birth attendant」という言葉は、産婦人科医や助産師などのプロフェッショナルを指す言葉として使われているようです。「フライトアテンダント」は飛行機での移動を伴奏する役割ですが、同じように「バースアテンダント」は赤ちゃんを出産する女性に伴奏する役割です。私自身が、出産に向き合う女性に伴奏する役割でありたいと、「バースアテンダント」を表明しています。なお、私は英語よりも広い意味で、産婦人科医や助産師のような資格がなくても、出産に向き合う女性の悩みを聞いたり、正しい知識を教える人を「バースアテンダント」と呼びたいです。</>

●出産・育児に向き合う女性の悩み
――出産・育児に向き合う女性はどのような悩みを抱えていますか?

これまでに私に相談に来ていただく女性は30代の方が中心です。もちろん、20代から40代の方もいます。笠松町や近隣の地域では、里帰り出産をされる方も多いです。「周りに相談できる人がいないけど、奥村さんなら相談にのってくれそう」と言って相談に来られる方が多いです。なお、地域には保健師がいますが、保健師に相談するのはハードルが高いと感じられるようです。気軽に相談できる人が必要だということが、改めて感じられます。また、子育て支援と母親支援とは別のものです。子どもだけに目が向きがちですが、女性に向けた支援が必要だと感じています。出産・育児に向き合う女性は弱音を吐けない、苦しさを感じている方が多いです。

女性たちの悩みの要因の1つに、親世代との価値観の違いがあります。親世代は出産前に退職するのが当たり前の時代でしたので、仕事と育児を両立する価値観を理解されないことが多いです。しかし、今と昔では経済的背景も異なり、今は共働きをしないと生活をしていけない世帯が大半です。また、出産や育児については、昔の誤った風説や風習が根強く残っています。例えば、「出産時には障子の桟が見えなくなるくらい痛くなる」というのは誤った風説ですが、親世代からそのようなことを聞かされると、女性の気持ちが萎えてしまうことがあります。

●出産を控える女性へのアドバイス
――出産を控える女性には、どのようなことを伝えたいですか。

まずは、母子手帳を活用してください、ということです。母子手帳には出産・育児に必要なたくさんの情報が詰まっています。これをよく読んで、記入する欄には記入してください。お子さんが生まれて育つ記録を思い出として残すものにもなります。

母子手帳は、妊娠した時に病産院で「妊娠届出書」を受け取り、これを各市区町村の保健センターに提出したときにもらえます。自治体によって異なりますが、母子手帳を受け取るときに、いろいろな説明や案内をしてもらえることもあります。

ママ・ベビーサポートおくむらでは、母乳育児の相談を多く受けており、また乳房ケアを行っています。中には乳房が痛くて助けてほしい、という相談もあります。できれば痛くなる前に、前もってご自身で乳房ケアをしていただき、気になることがあれば早めに相談していただければと思います。

母乳育児については、世間では色々な方式が紹介されていますが、私は「こうしなければならない」というものだとは思いません。大事なことは、子どもが適切に栄養を摂取できて、母親が苦痛を感じることなく、生活スタイルも含めて、本人に合っているかということです。母乳でも粉ミルクでも子どもは育ちます。仕事をしながら子育てをすると、授乳できるタイミングも限られます。母親一人ひとりにそれぞれの母乳育児の在り方があると思います。

ベビー用品について説明

ベビー用品については、焦っていろいろなものを早くから用意する必要はありません。必要になったときに必要なものを買い揃えればよいです。

ミルク・・・哺乳瓶は出産中に考えるぐらいでちょうどよいです。病産院で売ってくれるところもあります。大きさ、素材、乳歯の形によっていろいろなものがあります。先が乳房に似た形をした哺乳瓶もあります。使い勝手がよいものを選んでください。搾乳機は必要になったときに買えばよいです。

沐浴・・・ベビーバスは、プラスチック製のしっかりしたものがよいです。ビニール製で空気で膨らませるものだと、赤ちゃんの体を支えにくいです。底に排水栓がある方が水を抜きやすいです。石鹸は手に付けてお湯の中で赤ちゃんの体を洗うときに、固形ものものが洗いやすいです。

衣類・・・最初の50cmサイズのものは1ヵ月ぐらいしか着ないため、産後しばらくは新生児服でなくても、大判のバスタオルでくるんであげても十分です。買ってきた衣類は一度素洗いをしてから赤ちゃんに着せてください。柔軟剤は赤ちゃんに合わないものもありますので、注意してください。

寝具・・・小さいお布団があるとよいです。ベビーベッドは使う期間が短いため、赤ちゃんが安全に眠れる場所があれば、必ずしも必要はありません。

●全国でバースアテンダントのネットワーク化をめざす
――今後はどのようにしていきたいですか?

今年度は「これからもうすぐママセミナー」の20回の講座をやりきって、一人でも多くの、出産・育児に向き合う女性と接点を持ち、必要な情報を提供したいです。

また、今後は、出産に向き合う女性の悩みを聞いたり、正しい知識を教える「バースアテンダント」を、全国的にネットワーク化したり、育てたりしていきたいです。関心がある方は、私たちと一緒に取り組んでいただきたいです。

セミナーの様子

<略歴>
1985年 名古屋赤十字看護専門学校卒業、看護師免許取
1985年 名古屋第一赤十字病院ICU勤務
1987年 大垣市民病院 ICU・CCU勤務
1988年 名古屋市立中央看護専門学校 助産科進学
1989年 助産師免許取得 大垣市民病院 産科病棟で勤務を再開
2015年7月 ママ・ベビーサポートおくむら設立
2017年5月 NPO法人つなぐプロジェクト設立 代表理事に就任

<団体>
特定非営利活動法人つなぐプロジェクト
ママ・ベビーサポートおくむら