東海地方発、世の中にインパクトを与える企業・団体・個人の最前線の情報を届けます。

東海最前線

一般廃棄物を主燃料とする木質バイオマス発電プラント、名古屋港木材倉庫「NPLWバイオマスパワープラント」(名古屋市南区)

【ここが最前線】100%地域の木質燃料で運転するバイオマス発電プラント
 

電力不足や燃料高騰などが取り沙汰される昨今、
電気の安定供給な提供は大きな課題となっています。
一方、気候変動対策やSDGs意識の高まりを受けて、
環境負荷の少ないエネルギーが求められています。
しかし、安定供給と環境負荷低減の両方の追求は容易ではありません。

そのような中、注目されている発電方式の一つが「木質バイオマス発電」。
名古屋市内で初めてとなる木質バイオマス発電所が2022年2月に
発電開始しました。環境に優しいだけでなく、ゴミ削減にも一役買うという
新しいプラント「NPLWバイオマスパワープラント」を取材しました。
(NPLWは「Nagoya Port Lumber Warehouse Biomass Power Plant」の略)

NPLWバイオマスパワープラント

 

木質バイオマス発電とは?

昨今、地球温暖化対策の観点からクリーンエネルギーが重要視されています。
バイオマス発電もその1つです。バイオマス発電とは、植物油などの液体燃料、
鶏糞などの家畜排泄物燃料、そしてチップやペレットなどの木質燃料など
自然由来の燃料を有効活用し、発電を行うものです。

木質バイオマス発電は、バイオマス燃料を燃やすときに二酸化炭素を
排出しますが、なぜクリーンなエネルギーだと言えるのでしょうか。
樹木は二酸化炭素を吸収し、光合成することで成長します。
木質バイオマス発電で発生する二酸化炭素は、樹木が成長する際に吸収した
炭素が大気に戻っただけで、二酸化炭素を増やしていないとみなされるからです。
このように、炭素の排出を吸収が釣り合うことを
「カーボンニュートラル」と言います。

一方、石炭や石油、天然ガスを燃やす場合は、
数百万年から数億年という長い年月をかけて蓄積した炭素が
二酸化炭素として一気に大気中に放出されます。
これらの二酸化炭素は排出されたままであるため、
地球温暖化の原因となるのです。

バイオマス発電のフロー

 

 

地域の環境に貢献する地産地消のカーボンニュートラル

名古屋港木材倉庫株式会社は、名古屋市初の木質バイオマス発電プラント
を設立し、2022年2月17日から運転を開始しました。
公園や街路樹、一般家庭から集められた廃木材や剪定した枝葉、
さらに解体材などを粉砕しチップ化したものを、燃料として使用します。
燃料として用いる廃木材などの使用量は年間3万トンを計画しています。

発電した電気は、再生エネルギー固定価格買取制度(FIT)で
電力会社に買い取ってもらいます。最大1,330万kwの発電を
見込んでおり、これは約4,000世帯の電力消費量に相当します。

新しい発電プラントについて、名古屋木材倉庫株式会社の布目所長に
お話を伺いました。

名古屋港木材倉庫株式会社 リサイクル事業部 発電所長 布目さん

 

――このプラントの特長はどのようなところですか?
布目さん「全国でも珍しい点は、名古屋市内の公園、街路樹や、
     一般家庭から集められた、廃木材・剪定枝葉などの一般廃棄物を、
     木質チップとして燃料にすることです。年間2万5,500トンの廃棄物削減が
     見込まれます。名古屋市のゴミ削減にも貢献します。
     最近では剪定した枝などを、自ら当社まで持ち込んでくださる市民の方が
     増えました。ゴミにしかならなかったものが、燃料になる、電気になると
     知ってくださるといいですね。」

廃棄物・エネルギーのフロー

 

布目さん「大規模な発電を目指すプラントは、海外などからわざわざ
     木質燃料を輸入して稼働しているところもあります。
     それではカーボンニュートラルではなくなりますし、
     環境を良くしたいという理念から外れ、本末転倒ではないかと思います。

     当社はあくまでも地産地消のエネルギーを目指しており、
     すべての燃料を名古屋市の廃棄物由来の木質チップだけで
     継続的に発電を続けられる規模にしました。
     そのため、発電出力をあえて1,990kwと適度な規模に抑えました。」

 
名古屋市内から集められた枝葉

 

 

ゴミ非常事態宣言を受けて、チップ工場の稼働、バイオマス発電へ

名古屋港木材倉庫株式会社は、1923年(大正12年)創業。
創業当初は貯木場運営や木材の港湾運送を手掛けていましたが、
次第に倉庫業や港湾業、産業廃棄物の処理などを手掛けるようになり、
1985年からは木材チップ工場を稼働させて、チップとして販売する、
廃木材の再利用にも取り組んできました。

枝葉や廃材を破砕したチップ

 

名古屋市では、ゴミの増加に伴い、
1999年に「名古屋市ゴミ非常事態宣言」を発出しました。
廃木材も増加したため、名古屋港木材倉庫では加工したチップを
販売しきれないほどになり、新たなチップの利用法を探しました。

バイオマスパワープラント チップヤード

 

布目さん「木質チップは基本的にはボイラーの燃料や製紙原料、
     合板の材料にします。それ以外の利用法を探そうと、
     堆肥にしたり、家畜の敷き藁や果樹園の下草として
       売り込んだこともありました。
     でも、どれも量が少ないため、決定打にはなりませんでした。」

そうした試行錯誤の中で出てきたアイデアが、木質バイオマス発電でした。
布目さんは2015年頃に全国各地のバイオマス発電プラントを調べて、
社内で提案しました。
当初、社内では、チップを購入していただける既存顧客への影響を考慮して、
慎重な意見もありました。そこで、既存顧客へのチップ販売量も確保した上で、
年間3万トンのチップを燃料とするバイオマス発電プラントを計画することで、
事業化が決定しました。

2020年からバイオマス発電プラントの建設に着手。
固定価格買取制度(FIT)で売電するために、資源エネルギー庁から
「再生可能エネルギー事業計画」の認定を受けて、
2022年2月17日に発電を開始しました。

ボイラー

 

アートを使って、柔軟でエネルギッシュなイメージを発信!

せっかく発電プラントを立ち上げるなら、
明るく面白く話題を呼ぶようなものにしたいと、
壁面をアートで飾ることも決めました。

アーティストは布目さん自身がファンだという「HITOTZUKI」。
世界各地でフリーハンドでの壁画制作を行なっており、
自然のパワーを感じさせる作風が、環境に配慮した発電プラントに
ぴったりだと感じたそうです。

布目さん「HITOTZUKIのお二人に、ダメもとでSNS経由でお願いをしてみたら、
     快く引き受けてくださいました。『生命の尊厳』をテーマに、
     発電機のタービンなどのモチーフや、エネルギーが放出される様が
     表現されています。日本各地のプラントとは、
     一味違う仕上がりになったと自負しています。」

 

「HITOTZUKI」によるチップヤードの壁画

 

布目さんはこのプラントを、地域の企業や人々にもっと知ってほしいと願っています。

布目さん「ここは、もともと貯木場として水面に材木を浮かべていた場所です。
     最終処分場利用により埋め立てられ、そして今、
     ゴミをクリーンなエネルギーへと変える場所になりました。

     当社のあゆみは地域の廃棄物やエネルギー、産業の動きともリンク
     しているように感じます。バイオマスプラントは、
     愛知県内にはいくつかありますが、名古屋市や近隣にはありません。

     名古屋市民の皆さんや地域の企業に関心を持っていただき、
     廃棄物やエネルギー、環境問題について考えるきっかけにして
     いただけると嬉しいです。」

 

「HITOTZUKI」による壁画を前に

 

会社概要
名称:名古屋港木材倉庫株式会社
所在地:名古屋市南区加福本通2丁目1番地
代表者:代表取締役 野間順一
事業内容:倉庫業、一般港湾運送事業、通関業、木材検量事業、港湾労働者派遣事業、
     木質チップ製造業、産業廃棄物処理業、一般廃棄物処理業、
       ゴルフ練習場及び飲食店の経営、太陽光発電事業、ほか
設立:1923年(大正12年)
資本金:1億2,000万円
年商:44億円(令和3年実績)
従業員数:150名(パート含まず)(令和3年実績)

 

取材・文・撮影:鈴木 満優子

編集:東海最前線 編集部