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老人福祉施設のスタッフの負担を削減、岐阜市のユニークな調剤薬局

珍しいタイプの調剤薬局

あるきっかけで、岐阜の老人福祉施設から紹介された、岐阜市内に2年前に開業した薬局。
担当者の名刺には「総合医療支援薬局」と書いてある。珍しいタイプの薬局のようだ。

調剤薬局とは、医師が発行した処方箋に基づいて医薬品を調剤し患者に提供する薬局だ。
医療機関(病院やクリニック)に隣接し、そこの処方箋に基づく調剤が大半を占める
調剤薬局を「門前(もんぜん)薬局」といい、
不特定多数の医療機関の処方箋を扱う調剤薬局の薬局は「面(めん)薬局」という。

総合医療支援薬局(以下「当薬局」)は「面薬局」に分類されるが、
医療機関や老人福祉施設と連携し、自ら老人福祉施設に出向いて、
利用(入居)者である高齢者の薬を提供する、
という他に類を見ないタイプの調剤薬局だ。

 

老人福祉施設のスタッフの負担を軽減できるアイデア

当薬局の創業者は昭和50年生まれの薬剤師で、調剤薬局での勤務経験がある。
この頃から勤務薬剤師として施設に薬を提供していたが、施設の現状を見たときに、
薬剤師として初めて「職能を生かした仕事が出来る」と感じたアイデアが、
起業のきっかけとなった。

施設はどこも深刻な人手不足の状態にある。
限られたスタッフが入所者の薬の仕分けをしたり、
配薬をするのは大変な手間で、時間もかかっていた。
それらを薬の専門家である薬剤師が担えば、施設のスタッフの負担を軽減でき、
入所者にも適切な薬の提供ができるようになる。

このアイデアを、前職の仲間に伝え、薬剤師2名、事務スタッフ2名で2018年にスタート。
岐阜で始めたのは、従業員全員が岐阜市および近隣出身だから。

当薬局の業務内容は実にユニークだ。
施設を往診する先生の処方箋に基づいて薬を提供するのが基本サービスだが、
医師や施設と綿密な連携による臨機応変な対応力や、
時には従来の調剤薬局の守備範囲を超えたサービスが売りだ。

薬剤師自身がコーディネイターとして活動しているため、
専門的な投薬のアドバイスや医師への提案も行う。

さらに、各施設での薬品の収納についても関与することも特徴だ。
施設に合わせた収納方法、必要に応じて棚の設置や施工も可能、
納品方法も細かくカスタマイズする。

これらの御用聞き的サービスが、施設の業務軽減や労務改善にもつながっている。
高齢の患者さんの容態にあわせた薬の剤型や、錠剤を粉砕するなどの提案も行い、
ときには医師との交渉も代行する。
施設としては、薬に関することはすべてこの薬局に任せられるため、
安心で便利になるわけだ。

お薬カレンダー

 

コーディネーターは大活躍の仕事ぶり

「コーディネイター」の薬剤師は大活躍の仕事ぶりである。
施設の看護師が夕方に帰宅し、クリニックが閉まった後でも対応できるよう、
営業時間は11時から24時としているが、注文は24時間受け付けており、
営業時間外はインターネットFAXや社長・社員の個人電話でも対応している。

開店と同時にFAXで届いていた処方箋の薬を開店から準備。
念入りに内容をチェックし、必要に応じて医師や施設にも確認をとる。

続いて、施設や個人宅に薬を配達。
その際に、処方変更などを確認し、服薬指導、収納場所への薬のセット、
利用者の体調や服薬状況、要望などの聞き取りを行う。
その内容によっては処方内容や日数の変更などを医師に照会確認する。

薬局に戻り、再び薬の準備と配達。
その間も、必要に応じて施設スタッフや、病院、医師、訪問看護師、ヘルパー、
ケアマネージャーなどと連絡を取り、適切な薬の準備や管理ができるよう対応する。

薬局に戻って、翌日の準備や薬歴(カルテのようなもの)を作成したり、
医師やケアマネージャーへの報告書、各種管理に関する事務処理などを行う。
合間を見て休憩をとりつつ、病気や薬についての勉強も欠かさないという。

 

従来の調剤薬局の守備範囲を超える、施設や利用者に喜ばれるサービス

当薬局は薬の準備についても特徴がある。
一般的に、町の調剤薬局で提供される、連続した包装の薬の束の状態では、
多数の利用者を抱える施設にとっては、
誰がいつ、どのように使う薬なのか分からなくなるため、不便だ。

当薬局ではそれに応えるため、細心の準備を行っている。
内服薬は、氏名や服用日を印字して一包化。
錠剤を粉砕、1度に服用する薬をホチキス止めし、
患者様ごとに用意したケースや お薬カレンダーにセットする。
外用薬(湿布や塗り薬など)にも氏名、用法など印字したシールを貼る。
手間が掛かるが、施設にとっては「役に立っている」と喜ばれている。

名前や用法のシールが貼られた薬

先述のとおり、施設は人手不足で、
看護や医療の専門知識をもつスタッフがいない施設も多い。
当薬局は入所者の薬を完全に管理し、スタッフや入所者の希望を聞き、
専門知識に基づいて飲用・使用方法、ときには処方や錠形の変更なども提案する。

施設に対しても、効率的な薬の管理・保管方法までも提案する。
施設にとっての重要なパートナーとしてフル回転している。
従来の調剤薬局の守備範囲を大きく超えるサービスだ。

 

多様なニーズに応える仕組み・体制の充実

この業務は、単に薬の知識があるだけでは成立せず、
迅速な対応と正確さ、コミュニケーション能力が不可欠になる。
さらに、この業務を継続稼働させるには、仕組みや体制の充実も重要である。

まず注文の受付体制。病院やクリニックから処方箋がFAXで送られてくると、
従業員全員のメールアドレスにメールが送信され、24時間確認できる。
実際に日曜や祝日に容態が急変した患者様を、
臨時で往診した医師からの処方箋が来ることもよくあるとのこと。
普段は別の薬局を使っている患者様の処方箋が、
いつもの薬局が休みなのでと当薬局に注文が入ることもある。
 
ハードについては、最新の分包機(錠剤や粉薬をパックする機械)、
錠剤を粉砕して粉薬に変える錠剤粉砕専用機器などを導入したほか、
施設の入所者を管理するオリジナルのシステムを構築し、
施設と利用者に役立つサービスを追求している。

分包機

当薬局を利用する施設からは、多くの声が集まっている。
「サービスを開始した日から負担軽減が実感でき、安心して薬を任せることができる」
「煩雑な作業に追われていた前の状況には戻れないので、絶対に辞めないでほしい」
「施設としての本来の業務に専念できる。利用者さんと接する時間が増えた」
「なんといっても、職員の残業時間が減ったのがありがたい」

施設の利用者や家族からも、感謝の言葉が届いている。
「薬の管理をきっちりしてもらって安心」
「細かい要望を聞いてもらえてありがたい」

 

施設だけでなく個人宅へも業容を拡大

開店からおよそ2年となる当薬局。
現在、利用している施設から高い評価を得て、需要も高まっている。
スタッフも拡充し、薬剤師だけでなく
収納スペースを提案施工できる専門家などもチームに加わり、
施設に寄り添う薬の専門パートナーとしての存在感を高めている。

最近では、介護施設でお世話になっている医師や病院から、
個人の在宅の患者様の薬も頼みたいと依頼があり、その数も増えている。
さらに在宅診療に力を入れているクリニックや医師とも連携して
個人宅への対応も積極に対応しはじめており、業容が拡大している。

薬ケース

 

当薬局では、現状に満足することなく、スタッフでアイデアを出しながら、
業務のオペレーションも日々改善を続けている。
手間の掛かる作業を厭わず、必要な知識とスキルをもった薬剤師に
仲間に加わってほしいそうだ。

最後に、代表取締役の中村忍さんに今後に向けての展望を聞いてみた。

中村さん)現状の薬剤師の仕事を考えた時に、『“本当に”必要なのか? 』
  という問いかけが浮かびますが、世間からは必要ないと言われると思います。

  一方、核家族の増加と高齢化にあたり、施設に入居される方は増加傾向。
  しかし施設の現場は疲弊するばかり。
  そこで、私たちが施設スタッフ(看護師や介護士)、医師、訪問看護師、
  病院スタッフ、ケアマネージャーたちと直接やりとりをし、
  多職種との連携の中に「薬のプロ」として参画することにより、
  初めて『薬剤師として仕事をしている』ことになるはずです。

  自分たちはそれを目指し、今後は、知名度も評判もさらに上げていき、
  施設側からやって欲しいと頼まれるまでにしたい。
  「施設」の薬なら「総合医療支援薬局」と言われるようになりたいです。

 

従来の薬剤師のイメージを大きく変えるこの取り組みに心から敬意を表し、
さらなる発展にエールを送りたい。
もしかしたら、岐阜生まれのこのビジネスモデルが日本中に広がるかもしれない。

 

取材協力 総合医療支援薬局
住所: 岐阜県岐阜市切通3-1-1
TEL: 0120-176-186
FAX: 0120-176-187
E-mail: generalmedicine@gmail.com

 

筆者 今尾昌子  コミュニケーション・クリエイター
企業のマーケティングコミュニケーションおよび広報活動の指導や支援活動を行う。特に中小企業の発信力強化に尽力。企業相談や勉強会講師はもとより、ラジオナビゲーターとして中小企業の発信の場づくりに取り組むなどユニークな活動も展開。指導してきた中小企業はのべ1000社以上。認知度向上、企業の活性化に現場目線で取り組む。岐阜市出身。グラン・ルー代表。
公式サイト http://www.mahsa.jp