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東海最前線

豪雪地に移住・開業した、こだわりの珈琲専門店。お菓子工房とのコラボにも成功。

関東のIT業界から、豪雪地のスペシャルティコーヒー専門店へ

実は、筆者が10年近く愛用している珈琲店のひとつは、世界有数の豪雪地にある。
とにかく味がいい、香りもいい。お客の好みに合ったブレンドを提案してくれる。
専門家としての安心感。豪雪地にもかかわらず、店頭売りが9割を占めている。

スペシャルティコーヒー店「ミールクラフト」の店主 盛岡貴裕さん。
実は、もともと千葉県でシステムインテグレーターのITコンサルティング業に従事。
12年間、IT業界で活躍してきた。

その盛岡さんが、36歳で世界有数の豪雪地への移住、起業の決断にいたる。
奥様の実家がある地で、盛岡さんがコーヒー専門店を起業する決断をした背景には、
都内で出会った自家焙煎コーヒー専門店の存在があった。

そこで「スペシャルティコーヒー」の世界を知り、今までに味わったことのない
美味しさや、そのコーヒーの背景(バックグラウンド)に感銘を受けた。

当時は画期的であった、コーヒー生産者から消費者をつなぐサステイナブルな活動に
魅力を感じ、自家焙煎コーヒー専門店を開業し、一生の仕事にしたい、と決意。

その後、数年間ITの仕事を続けながら、資金を貯め、店舗リサーチを行い、
業界トレンドを注視しながら、スペシャルティコーヒーの知識を深めつつ、
開業の準備を進めてきた。

 

豪雪地に慣れ、楽しみながらの試行錯誤の日々

盛岡さんが移住したのは、新潟県の十日町市。誰もが知る、世界有数の豪雪地。
覚悟はもちろんあっての新生活となったが、実際に住んでみて、
豪雪地では雪の処理だけではなく、インフラ面での不便さ、設備などの出費の高さ、
気候によるさまざまな負荷などなど・・・
都会で生活しているときには思いもしなかった現実に直面。
まさに自然や気候が、日々の生活に影響することを痛感したという。

もちろん厳しい面だけではない。
季節の移り変わりが激しい分、ダイナミックな自然に触れることができ、
食文化の豊かさなどにも楽しみを見いだせるようになった。
豪雪地ならではの条件に寄り添いながら、工夫を重ね、
自分達の条件に合う暮らしを楽しみながら試行錯誤。

ここに住み、時代の変化を感じながら、その時々に合った商い方や
暮らしやすさを目指そうと思えるようになった。

 

アドバンスド・コーヒーマイスターとして、こだわりの商品やとりくみ

当店の業務内容は、コーヒー豆の焙煎加工・販売・卸売のみならず、
コーヒー関連コンサルティング業・セミナー事業も行う。

豆売りに特化したスペシャルティコーヒー専門店であるため、
同業の他店の多くで併設しているような、喫茶サービスやテイクアウトドリンクはない。
工房で自家焙煎したコーヒー豆を対面販売しているお店である。
これは、開業当時の自らのキャパシティも考えてのスタイルであった。

コーヒー店といっても、喫茶を求める方と、良質なコーヒー豆を要望される方とでは
客層がまったく違う。
当店では、「ホームコーヒー」を楽しみたいお客様をターゲットとした。

「コーヒー・マイスター」という資格がある。
この資格は、単にコーヒーに関する知識だけではなく、
コーヒーについて「伝える」ことが求められる。

盛岡さんが取得しているのはさらにその上位資格である
「アドバンスド・コーヒーマイスター」。
より専門的な知識や技術を生かし、
店頭やセミナーなどでコーヒーの情報発信を続け、
地域の珈琲ファンにスペシャルティコーヒーの魅力を伝えている。

盛岡さんが扱うコーヒー豆は、グループや系列店などに属さない、
「縛り」がない豆を自らがセレクト。スペシャルティコーヒーのみを使用し、
「クリーンカップ」(濁り・雑味のない、綺麗な飲み口のコーヒーという意味)
「個性豊かな香味」「余韻の甘さ」を楽しめる、
飲んでいて心地良いコーヒーを目指している。

例えば、浅煎りでは芯残りのないように香味のポテンシャルを引出し、
深煎りでも焦げ感のない深みを感じられるなど、
自らの目利きと焙煎のこだわりを、どこまでも追求している。

そこから生まれた数々のオリジナル商品がある。
たとえば、越後妻有ブレンド:「じょんのび」「だんだん」、
ドリップバッグ越後妻有の花シリーズ:「雪割草」「山百合」「秋桜」「雪椿」など。
いずれも地域由来の名前を付け、地元の方に親しまれ、
発売10年のロングセラー商品となっている。

さらにコーヒー豆以外にも、カフェオレベースのコーヒー羊羹など、
コーヒーに合うスイーツも商品化、発売。
いずれも、自分たちが「美味しい」と思うものを自信をもってお届けしている。

顧客層は、十日町および近隣の方を中心に、週末祝日は県内各地、
県外(長野・北関東)からも来店客があるという。
いずれも口コミによる新規利用が多いため、お客様にわかりやすい情報発信を続け、
専門店としての丁寧な対応を心がけている。

 

お隣の菓子工房とのコラボ商品誕生、地元の品評会でグランプリ受賞!

当店のお隣は、「シェ・ヤマザキ」という洋菓子屋さん。
同じ敷地内にある。当店店長の奥様の実家がここだからだ。
移住し起業する際、この菓子店の駐車場の一角に店舗を建てさせてもらった。

当時、「コーヒー豆専門店」は、地域初の業態であった。
地元で長年営業している菓子店と繋がりのある店であれば、
お客様にも安心してもらいやすいのではないか、との考えもあり、そこで開店。

創業20年のこのお菓子屋さんは、地酒を使った『松乃井 原酒かすてら』など
創業以来のロングセラー商品もある、地元ではおなじみのお菓子屋さん。
これまでもコーヒー店でそのカステラを紹介したり、
コーヒーとのセット商品としてギフト販売する等に取り組んでいた。

6年前、「シェ・ヤマザキ」は、店長のお父様の代から弟さんの代に受け継がれ、
さらにこれからの新たな展開が求められていた。
地元の事業者交流会の勉強会で、当店とのコラボ商品が発案され、商品化にいたった。

こちらは、お菓子屋の先代(義父)が修業時代に製造していたリーフパイの技術に、
当店焙煎の珈琲を活かして、開発された珈琲パイ。
商品名も、お菓子屋「シェ・ヤマザキ」とコーヒー店名「ミールクラフト」を合わせた
「シェ・ミール」。この商品が、「一品セレクション」でグランプリを受賞、
地元メディアにも大きく取り上げられ、両店に新たなお客様が来店。
ギフト利用も増え、新たな地元の銘菓として利用され始めている。

 

開店から10年。豪雪地への移住、そこでの初業態開業、
コーヒー豆という輸入農作物ゆえの安定供給の難しさ、
夫婦ふたりでスタートし、子どもも誕生し、さまざまな苦労を乗り越えてきたが、
その分、地域密着のコーヒー専門店として存在感を高め、地域に愛される店となった。

「コーヒーの魅力をもっと伝え、地域の皆様の生活が豊かになるような、
楽しさを感じてもらえるお店にしたいですね。」
盛岡さんは語る。

もっと良質な焙煎や店舗サービスの充実のため、焙煎機などの
機器類のリニューアルや、自店での情報発信(コーヒーセミナー、ドリンク提供など)
が行えるスペース確保が今後の課題だ。
あくまでも規模の拡大ではなく、サービスの質の追求にこだわりつづける

 

地方への移住、および地方での起業は成功しないケースも少なくない。
盛岡さんの例にみられる、移住×起業で成功する秘訣としては、
「専門性のあくなき追求」、「徹底した地域密着」、「既存店とのコラボ」、
また実家のある地域なら、「実家との関係の良さ」が挙げられるのではないか。

これからのさらなる発展に心からエールを送りたい。

 

協力 ミールクラフト https://www.mealcraft.jp/

筆者 今尾昌子  コミュニケーション・クリエイター
企業のマーケティングコミュニケーションおよび広報活動の指導や支援活動を行う。特に中小企業の発信力強化に尽力。企業相談や勉強会講師はもとより、ラジオナビゲーターとして中小企業の発信の場づくりに取り組むなどユニークな活動も展開。指導してきた中小企業はのべ1000社以上。認知度向上、企業の活性化に現場目線で取り組む。岐阜市出身。グラン・ルー代表。
公式サイト http://www.mahsa.jp