東海地方発、世の中にインパクトを与える企業・団体・個人の最前線の情報を届けます。

東海最前線

妊娠・出産・子育てに関する助産師への個人相談や講座をオンラインで世界中に提供、株式会社じょさんしGLOBAL Inc.(愛知県刈谷市)

2022.03.28

社会・地域

ここが最前線:どこにいてもオンラインで助産師への相談や講座を利用できるサービス

2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大により、妊娠・出産・子育てをする夫婦が、
悩みを相談や必要な情報の入手が難しい状態に陥りました。
それは、行政や病院が行う両親学級や、子育て支援センターなどの多くのサービスが
休止を余儀なくされたためです。これらの夫婦の一部にとって救いとなったのが、
オンラインで助産師に相談したり、妊娠・出産・育児に関する講座を受講できる
「じょさんしONLINE」というサービスです。

このサービスを提供する、株式会社じょさんしGLOBAL Inc.(愛知県刈谷市)の
代表取締役であり、助産師でもある杉浦加菜子さんに、同社のサービスのことや、
妊娠・出産・子育てをめぐる社会の理解などについてお話を伺いました。

なお、サービス内容、料金、人数、実績などのデータは2022年2月時点のものです。

株式会社じょさんしGLOBAL Inc. 代表取締役 杉浦加菜子さん

 

―――じょさんしONLINEが提供しているサービスについて教えてください。

杉浦)個人向けと法人向けのサービスがあります。
   創業当初から個人向けと法人向けの2つを両輪として考えていました。

   個人向けには、個人相談と講座をいずれもオンラインで提供しています。
   個人相談は、月経、妊娠、出産、授乳・卒乳・離乳食、産後の心と身体家族、
   海外の出産・育児、などについて助産師が相談を受け付けています。
   料金は30分で2,200円です。

   講座は、妊娠、出産、育児、離乳食、セルフケア、海外在住者向けの出産や
   育児に関するプログラムがあります。
   料金は500円~3,300円です(医療従事者向け英会話講座を除く)。

   法人向けには、研修と、従業員やその家族向けに個人相談のサービスを
   提供します。
   研修は、女性の健康、男性の育休・産休活用、ダイバーシティなど、
   30種類以上のセミナーやワークショップを提供します。

   個人相談は、妊娠、出産、育児に関する相談、復職に向けた育児と仕事の
   両立の相談、男性の育児休暇の取得の相談、更年期の症状に関する相談
   などに対応します。

   夜間にも対応でき、外国語(英語・フランス語・ドイツ語)での
   相談も可能です。また、女性向けや妊娠・出産・育児に関する
   商品・サービスを提供する企業には、商品開発やマーケティングなどに
   ついて、助産師としてのアドバイスも対応可能です。

 

2022年3月の講座

 

―――これまでどれぐらいの方が御社のサービスを利用されましたか。

杉浦)個人はこれまでにおよそ3000人の方に利用していただきました。
   そのうち約4割が海外在住の日本人で、25の国と地域になります。
   法人は2021年6月から営業を開始して、トライアルサービスを
   実施した上で、現在、複数の企業と商談中です。

 

―――御社で相談を受けてくれる助産師さんは何名いらっしゃいますか。

杉浦)14名の助産師が一緒に活動しています。もともと私と知り合いだった
   助産師もいますが、私たちの活動を知って、「一緒にやりたい」と
   加わってくれた助産師もいます。

   助産師が個人相談の窓口になりますが、そのバックには専門家の
   コミュニティーがあり、必要に応じて、産婦人科医、乳腺外科医、
   精神科医、理学療法士などの専門家に相談することができます。

   例えば最近はコロナ禍で「精神的につらい」という方が結構増えていますので、
   精神科の医師にアドバイスしていただくこともあります。

じょさんしONLINEメンバー会の様子(じょさんしONLINE Instagramより)

 

―――そもそも、助産師とはどのような専門家ですか?

杉浦)助産師は、看護師資格を持つ人が、助産師養成学校で1年以上学び、
   助産師試験に合格することで得られる国家資格です。
   助産師資格の取得方法はさまざまで、ここに記載されている方法以外にも、
   4年制大学で看護師の資格と共に、助産師資格を取得可能です。

   皆さんは「助産師」と聞くと、「お産の現場にいる人」というイメージが
   強いと思いますが、それは助産師の役割の一部でしかありません。
   他にも、子どもの性教育、妊活・不妊治療、家族の関係全般、パートナーシップ、
   更年期の方のサポートなど、女性と家族の一生をサポートすることができる
   専門家です。

じょさんしONLINEのメンバーが紹介する助産師の仕事しりとり(じょさんしONLINE Instagramより)

 

―――御社はいつ事業を開始されましたか。

杉浦)妊産婦向けの個人相談は2019年の1月から始めました。
   当初はサービスというよりも、ボランティアとして相談にのっていました。
   2020年1月に「オンライン個人相談サービス」をローンチしました。
   その2カ月後の2020年3月ぐらいに新型コロナウイルスが国内に広がりました。

 

―――新型コロナウイルスの感染拡大の影響はいかがでしたか。

杉浦)出産前の夫婦が受ける両親学級は行政や病院が行っていますが、そのほとんどが
   コロナ禍で休止になりました。また、子育て支援センターなども休止してしまい、
   妊婦夫婦やはじめて出産した夫婦が、妊娠・出産・育児について学ぶ機会や、
   交流する場や、相談する機会が無くなってしまいました。

   「このままでは、産後うつのリスクがあがり、育児不安を抱える人が
   増えるのではないか」という危機感があり、何とかしなければと思いました。

   そこで、当社は2020年4月4日(土)から4月19日(日)にかけて、
   無料のオンライン両親学級・相談会を開催しました。
   これには、国内外から約1,400人の妊娠・出産・子育て中の夫婦と、
   助産師が約200名、その他ドクターや理学療法士なども参加してくださいました。

 

―――御社はコロナ禍になる前からオンラインでサービスを提供されていましたか?

杉浦)当社は2019年からオンラインで相談事業をしています。
   サービス名を「じょさんしONLINE」と謳っているように、
   最初から対面ではなくオンラインで相談や講座を提供していました。

   2019年当時は、まだリモートワークやオンライン会議などが普及して
   いなかったため、最初はオンライン相談自体のハードルが高かったです。

   利用者さんは「オンラインでどうやって助産師に相談すればよいのか」
   ということをイメージしにくかったですし、助産師側も
   「オンラインで何をやれるのか」が分かっていませんでした。
   そのハードルを下げることが課題でした。

   しかし、コロナ禍でリモートワークやオンライン会議が普及したため、
   皆さんのオンライン相談への意識もガラっと変わり、
   オンライン相談に対するハードルは無くなりました。

オンライン相談の様子

 

―――最初からオンラインのサービスにこだわられたのはなぜですか?

杉浦)きっかけは、私がオランダで妊娠・出産・育児を経験したことです。
   日本人が海外で妊娠・出産すると、文化の違いや言語の問題もあり、
   周りに相談しにくかったり、必要な情報が得られないという状況があります。

   私自身は、アレルギーのあった娘への離乳食の進め方や、予防接種を打つ
   時期や方法などについて相談できず、必要な情報が思うように
   得られませんでした。
   実際に、日本人では日本国内よりも海外で出産をした女性の方が、
   産後うつになる可能性が高いようです。

   しかし、考えてみると、海外に限らず、国内でも妊産婦へのサポートが
   行き届かない人がたくさんいることに気づきました。
   対面で行う相談サービスがあっても、その場所に行けない人がいます。
   例えば双子や三つ子の親は、相談しに出かけることはものすごく
   ハードルが高いです。つわりがひどく外出できない方もいらっしゃいます。
   新型コロナウイルスに感染した方や濃厚接触者も外出できません。

   そのような方にとっての解決策となるのがオンラインです。
   オンラインで、世界中のどこにいても、妊娠・出産・育児の相談や講座を
   受講することができます。

   当社はオンラインで講座や個人相談を提供することを通して、
   「誰もが安心して妊娠・出産・育児ができる社会を実現したい」という
   ビジョンを掲げました。

杉浦さんのオランダでの出産後の様子

 

―――当初から個人向けと法人向けのサービスを両輪として考えられたのはなぜですか?

杉浦)企業の従業員やその家族にとって、気軽に相談できる助産師がいることで、
   安心安全な状況で妊娠・出産・育児をすることができ、産後うつの予防や
   離職防止につながるのではないか、と考えたからです。
   さらに妊活や更年期などの悩みも相談することができます。
   従業員の心身の健康や生活の向上につながり、
   長期的に見れば企業の業績にも貢献できると考えています。

   個人向けサービスによって、個人の不安を解消することはできますが、
   共働き世帯が増える中で、社会全体で妊娠・出産や育児に対する理解が
   まだまだ追いついていません。
   そのシワ寄せが、妊娠・出産・子育ての当事者である女性に
   来ているのが現状です。
   この状況は、社会の風潮を変えないと根本的に解決しないと思いました。

   社会の風潮を変えるきっかけになりうるのが、法人向けサービスです。
   多くの企業で妊娠・出産・育児に対する理解が深まれば、社会の風潮も
   少しづつ変わるのではないかと期待しています。

 

―――御社サービスを法人に紹介した際の反応はいかがですか?

杉浦)私は創業当初の2019年からいろいろな企業と話をさせていただいていますが、
   助産師による相談や講座の必要性が、企業の方にまだ理解していただけていない
   部分があります。

   企業の方からよく言われるのが「困っているという声をあまり聞かないんだよね」
   ということです。しかし、これまでの相談件数・内容から、
   妊娠・出産・子育てをする従業員やその家族が「何も困っていない」ということは
   考えにくいです。

   おそらく、プライバシーの高い悩みや困りごとをなかなか言えなかったり、
   誰に話せばいいのかわからない、という状況だと思います。
   従業員やその家族が、実は困っているけど、誰にも言えないということに、
   私たちは危機感を持っています。

   また、企業の方から「すでに産業医や保健師がいるから」と言われることも
   多くあります。しかし、保健師や産業医と助産師では専門性が異なります。
   保健師や産業医の仕事は、従業員の健康面全般のサポートになります。
   助産師の仕事範囲は先ほど話したように、妊娠・出産・育児に特化した
   内容、妊活・不妊治療、パートナーや家族の相談、それらの心理面まで含めた
   女性と家族の一生に特化したサポートが含まれます。

 

―――確か、愛知県は男性の育児休暇の取得状況は全国でも下位の方だったと思います。
   この地方特有の課題はありますでしょうか。
   (参考:積水ハウス「男性育休白書2021」によると
    愛知県の男性の育児休暇取得日数は平均1.0日で全国45位)

杉浦)東京に比べると東海地域は保守的で、昔ながらの
   「男性は外で働いて、女性は家事・育児をする」という意識がまだ根強い
   と思います。今は、そのような意識をアップデートしていかなくては
   いけない時代に来ています。これから人口も減少していきますし、
   いろいろな立場の人たちが会社の中で働くようになっていきます。
   妊娠・出産・育児は女性だけが抱えるものではなくて、社会が支えていくもの
   という意識も、いろいろな企業の経営者に知っていただきたいです。

   企業の中で働くすべての人が、心も体も健康な状態で働けることが
   一番だと思います。それができるような環境づくりのために、
   私たちを使っていただけたらと思っています。

   妊娠・出産・育児に関する社会課題は、どうしても「女性だけの問題」だと
   捉えられがちですが、そうではありません。日本社会全体にとっての課題です。
   妊娠・出産・育児に関して、「なぜ男性の育児休業が必要なのか」、
   「妊娠・出産・育児やその前後にはどのようなサポートが必要なのか」
   ということを、まずは多くの人に知っていただきたいです。
   知ることをきっかけに、いろいろな立場の人がいることや、
   サポートの必要性について理解しやすくなり、
   ひいては多様な働き方や生き方の尊重に繋がっていくと思います。

杉浦加菜子さん

 

―――ありがとうございました。東海地方で少しでも多くの企業が
   御社のサービスを利用されて、妊娠・出産・育児をしながらも働きやすい
   職場環境になる企業が増えることを期待しています。

 

【会社概要】
会社名:株式会社じょさんしGLOBAL Inc.
事業開始日:2019年1月20日
代表取締役:杉浦 加菜子(助産師/保健師/看護師)
スタッフ数:運営事務局 4名、登録助産師 14名
事業内容:①産前産後のオンライン個人相談・オンライン講座セミナー
     ②法人向けセミナー/アドバイザリー業務 
     ③法人向け福利厚生サービス
所在地:〒448-0831 愛知県刈谷市熊野町1-1-1
URL:https://josanshi-cafe.com/

 

【取材・執筆】
東海最前線 編集部