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全国のアコーディオン愛好家を支える名古屋の専門店

こんな、専門店が名古屋にあった?!の感激の出会いから数年・・

まずは、筆者の個人的な経験から。
10年ほど前からアルゼンチンタンゴに魅せられ、ブエノスアイレスに出向いたときに、
古いバンドネオンを調達した。
何とも言えない音色に魅了され、弾けたらいいなと思いつつも、その術がみつからない。
また入手した楽器そのものが果たして使えるものであるのかどうかも疑問・・・。

そんなことを相談できる店ってあるのかとネットで調べていたら、
アコーディオン専門店が名古屋にあることを知る。
サイトを見る限り、かなり専門的なようだ。

「古いバンドネオンの調律も可能ですか?」とメールで問い合わせたところ、
「バンドネオンもアコーディオンと同じ仲間の楽器ですので、対応できると思います」
との心強い回答。当時東京に住んでいた私は、
南米の骨とう品ともいえる楽器を大切に持参、
新幹線に乗り、金山駅近くにあるお店を初めて訪問した。

まさに、アコーディオンの専門店だ。
ショールーム、いや小さな博物館のように、
サイズもカタチもデザインも多種多様なアコーディオンが並んでいる。
まずその品揃えに驚いた。

東京で見かける、なんでもありの総合楽器店とは全く様相を異にしていた。
店主は、私が持ち込んだバンドネオンを丁寧に見ながら、「直せますよ」と静かに対応。
そして私は安心して楽器を預け、後日楽器を受け取るため、再び当店を訪ねた。

そのとき、なんと東京から車でアコーディオンの修理に来られている
プロ演奏者にも出会う。
わざわざこの店に定期的に楽器のメンテナンスに来ていると聞く。
この店は、全国からお客さんが来られるぐらい、しかもプロが定期的に通うぐらい
専門的なお店なのだと改めて驚いたのを鮮明に覚えている。

その後、なんとかバンドネオンを誰かに習いたいと思いつつも、
師匠を探せないまま月日が経ち、その楽器は「いつか弾きたい未来の楽器」として
インテリア状態になるなっていた。

月日が流れ、私は諸事情で名古屋に引っ越すことになった。
新しい挑戦もそろそろ・・と思い始めた頃に、
数年前にたずねた金山のあの専門店のことが思い出された。
アコーディオンとバンドネオンは親戚だときいた。
であればせっかく名古屋に来たのだから、まずはアコーディオンからトライしては?
地元にあんな本格的な店があるなら、間違いがないだろう。

確か楽器の修理、調律はもちろんであるが、販売もして、
教室もやっていると言っていたし・・。
ということで、約数年ぶりに、このアコーディオン専門店に足を運んでみることになる。

 

脱サラをして、アコーディオン専業の道へ。本場への修行も体験し、地元名古屋で開業。

久しぶりに店を訪ねた。変わっていないキレイなお店。
看板のロゴもおしゃれで、センスの良さも一目でわかる。
そして店主もお変わりなくお元気なご様子。いつの間にか二人体制になられたようだ。

相変わらず、奥の工房での修理でお忙しいはずであるのに、
久しぶりに訪ねてきた客を迎え、丁寧に対応される様子は、以前と変わらない。

導かれるままに、店内の楽器をひとつひとつ見る。
それらの特徴について丁寧に説明され、音の出し方や音色の違いだけでなく、
その楽器が生まれたルーツや作られている工房についてまで言及され、
見聞きしているだけで、アコーディオンの偽りない専門家であることを改めて知り、
興味も高まってくる。
興味があるといえば、嫌な顔せず、試し弾きもさせてくれる点もありがたい。

この店主、中山邦雄さんはもともと大手メーカーでセラミック素材などの
研究開発を担当していたサラリーマンだった。アコーディオンは趣味で演奏していた。
そしてその活動の中で、当時名古屋市内で営業していた
アコーディオンの専門店(2012年まで営業)の店主に出会い、交流が深まるなか、
その方が高齢ということもあり、後継者もいないということを知る。

中山さんは会社勤めをしながら、そのお店に週末に定期的に通い、
修理や調律の作業を手伝うようになった。
そんななか、アコーディオンを販売するお店は全国にもあるが、
修理、調律、教室までトータルに対応できる店はほとんどない。

このサービスを誰かが引き継がないと・・・。と思うようになった中山さんは、
自らがそれを引き受ける覚悟で、30代後半までつとめた大手メーカーを40歳で退職。
以後、アコーディオン専業の道へと進むことになる。

そして、どうせやるならとアコーディオンの本場イタリアの専門メーカーで
修理・調律の修行を積み、アコーディオン仲間であり先輩の遺志を受け継ぎながら、
自らのお店を名古屋で創業することとなる。

中山さんのお店は「モンテ・アコーディオン」と名付けられた。
「モンテ」とは、イタリア語で「山」を意味するが、中山さんご自身の名前も、
そして先輩として教えを乞うた楽器店の店主も山本さん、そして金山にあるお店・・・
などの意味からこの名前になったという。山尽くしのアコーディオン専門店なのだ。
とても響きもよく、覚えやすく、またロゴもとても素敵だ。

この名古屋のアコーディオン専門店には、楽器を購入、修理、調律などで利用するほか、
教室に通うお客も多い。地元だけでなく、関西や九州方面からやってくる人も、
また先述のとおり、東京で活躍するプロ演奏家も通うほど。
名古屋にある専門店は、全国で知る人ぞ知る存在になっている。

2009年2月の開店から2019年2月までに楽器全体の調律を行った
アコーディオンの数は687台(修理・部分調律は除く 2019年5月時点)というから、
その実績は凄いとしか言いようがない。

調律には他の楽器に比べ時間も要する。
アコーディオン1台全体の調律を行う平均期間は約4日ということで、
1台1台の楽器に向き合う、丁寧な仕事ぶりがうかがえる。
効率、利益優先の仕事とは対極にある仕事だ。
地道に時間を重ね、仕事をされた結果がこの結果に結びついているのだと推察する。

創業10年、これからも豊かな心の時代を支える専門店として

当店は今年創業10周年を迎えた。
そしてこの春、その記念事業として、アコーディオンのコンサートが盛況に開催された。

アコーディオンという楽器の魅力を存分に知ってほしいとの思いから、
クラシック、映画音楽やタンゴ、テレビなどでおなじみのライトポップな曲、
ミュゼットなど・・・。アコーディオンで表現できるさまざまな世界を、
各分野で活躍する演奏者が出演、独自の腕と音色を披露した。

その会場に出向いた筆者には、驚きがあった。
アコーディオンを愛好する人が、名古屋にこれほど多くいるとは。
高齢者の方が多いが、若い人もいる。
観客の何割かは、すでに演奏を習ったり、
自ら演奏している層であることも知り、このマーケットにも驚いた。

近年、アコーディオンといえば、コマーシャルやドラマ、映画のBGMとして
耳にする場面も多く、またポータブルな楽器という手軽さもあり、
人々のアコーディオンへの親しみも増し、演奏需要も高まっている様子。

店主の中山さんによると、創業時の生徒は30人ほど。
その後続けていくことにより、口コミも増え、
今では登録している生徒数はのべ約196人(実際に来ている方は70名)。

もちろん途中で休んだりやめたりする人もいるが、
始める人が増えていることは間違いがないようだ。

ちなみにアコーディオンを始める動機で多いものは、
・外に持ち出せて電源が要らない楽器だから
・好きなアーティストがいる。
 (coba、チャラン・ポ・ランタン、ザッハトルテなど)
・若い頃に憧れていて、定年を機に始めた
・ヨーロッパへの旅行で見たので、自分もやってみたくなった
・施設、幼稚園、などで活用したいと思った
など。

多様なきっかけにより、アコーディオン需要は増えているようだ。
もっとも、当店では販売、修理、調律、教室だけでなく、
定期的に発表会を開催したり、地域でのイベントへの出展なども続けており、
そんな活動からも地道に愛好者を増やしてきているといえる。

筆者が知る限りでは、昔、日本人にとって、アコーディオンといえば
のど自慢の伴奏のイメージ。今は全く違う。
華やかな演奏の場面も目にすることが増え、かっこいいイメージが高まっている。

一方、高齢者向けのイベントや音楽療法の現場でも、この楽器は支持されている。
やはり可動式であること、一見、弾きやすいこと、
また懐かしい音色が魅力であることなどが理由ではないかと思われる。

アコーディオンがさまざまな場面で活用されてきていることは間違いない。
コミュニケーションツールとしての役割も大切な一面なのかもしれない。

一方、アコーディオンは夢を与える楽器でもある。
さまざまな自己表現のニーズに応える楽器として、大きな可能性を秘めている。

今、改めて世代を越えて、人気が高まっているのは、
当店のような専門店によるフルサービスがあるからだと実感する。

弾きっぱなしではすまない、維持できない繊細な楽器・・・
そんな一面も併せ持つアコーディオンであるからこそ、
この専門店のチカラがより生きるのだ。
消費する商品ではなく、ずっと使い続ける道具・・・
この大切な宝物との付き合い方を専門店は教えてくれているのだ。

商品を多く作ってたくさん売る。20世紀から続く大量製造、大量消費時代への警鐘。
量より質を求め、人々が心豊かに暮らすための役に立つ。
これこそが地域に根ざす、あるべきサービス業なのかもしれない。

 

さて、私はこのお店の素晴らしい対応力に感心し、
筆者は引き込まれる様にアコーディオンを始めた。
まずは、アコーディオンをこなし、その次にバンドネオンにも・・・夢は広がる。
本場イタリアの講師に習うことができるのも、このお店のおかげ。
何かと本場づくしの専門店である。
この店がなければ、選択することはなかっただろう。

地道に努力する、専門店のチカラが、生活者の小さな夢をかなえたり、
生きる希望を与えてくれたり・・そんなことが、現実にあるのだということを、
この名古屋で知ることができたことは、本当に幸せだ。

モノづくりで知られる東海地区では、作られたものを丁寧にメンテナンスして
永く大切に使われ続けるために、努力を続けるお店がある。
こういった存在こそが、モノづくりを支えているともいえる。

 

協力 モンテ・アコーディオン
http://www.ne.jp/asahi/monte/accordion/top.htm

 

筆者 今尾昌子  コミュニケーション・クリエイター
企業のマーケティングコミュニケーションおよび広報活動の指導や支援活動を行う。特に中小企業の発信力強化に尽力。企業相談や勉強会講師はもとより、ラジオナビゲーターとして中小企業の発信の場づくりに取り組むなどユニークな活動も展開。指導してきた中小企業はのべ1000社以上。認知度向上、企業の活性化に現場目線で取り組む。岐阜市出身。グラン・ルー代表。
公式サイト http://www.mahsa.jp